高崎市での第8回(2月25日)に続いて、第9回も安全保障がテーマで、「防衛費増と防衛力 上がるのは税金だけ?」。
今回は武蔵野市に戻っての開催で、会場は三鷹駅前の武蔵野芸能劇場の小ホール。
講師は、元陸上自衛隊レンジャー部隊の井筒高雄さんです。
岸田政権による安保3文書改訂により噴出している数々の疑問と、自衛隊の現実の姿について語っていただきました。
第8回が外交専門家の猿田佐世さん(3月25日の第12回にも登場予定)のお話だったのに対し、今回は自衛隊の現場、軍事のリアルを熟知されている方のお話で、一般国民には知らないことが明かされ、会場は驚き、ため息、怒りなど、さまざまな感情に包まれました。
事務局がまとめます。
今回のコーディネーターは、東京都議会議員の五十嵐えりさん。
まず、会場にいらした衆議院議員・菅直人さんから挨拶がありました。
「世界も日本も非常に危ない状況にあるなかで、元自衛隊のレンジャー部隊にいらした井筒さんからのリアルなお話が聞けることと思います。活発な議論をしていただきたい」
次に、企画の問題提起をした、武蔵野市議会議員・川名ゆうじさんからの今回の趣旨についてのお話がありました。
「ロシアのウクライナ侵攻以降、有事と言われています。日本も戦争の危機にあると、不安に思われている方も多いでしょう。ここでアンケートをしてみたいのですが、日本も台湾有事で中国と戦争をしてしまうのではないかとの危機感をお持ちの方はどれくらいいますか。【半分くらいが挙手】
沖縄では、先島諸島にシェルターを作る計画があると、昨年秋に報じられましたが、琉球新報によりますと、石垣島から全島民が避難するのに10日かかるそうです。何かあったときには避難することになっていますけども、10日もかけていたら、普通に考えても、その間にミサイルが飛んできてしまう。そんな状況で本当に戦争ができるのかと、非常に疑問を持っていまして、企画させていただきました。
沖縄の新聞にも『住民の命が守れるのか』と書かれています。沖縄の人たちは、先の戦争で犠牲になっていますので、今回の動きにもかなり深刻に、真剣に考えていらっしゃいます。ところが東京では、結構ぼんやりしているので、これでいいのかなと思っています。
国会の論戦も、今ひとつ本質的なことが論じられていない。これで大丈夫なのかと、日々不安を持っているなかで、井筒さんの話を聞こうと思い、企画しました。
皆さんに、もう1回質問です。防衛費を増やすことは仕方ないと思ってらっしゃる方はどれくらいいますか。【数人が挙手】あまりいないですね。
では、今の自衛隊の戦力で十分に戦えると思っていらっしゃる方は? 【挙手、なし】誰もいない。
防衛費の中身についてはこれからお話いただきたいと思います。その結果、私たちの生活がどうなるかについても、お話しいただき、みなさんからのご意見も聞いて、武蔵野政治塾らしく、静かに、落ち着いて、激しく議論したいと思います。」
■長男はレンジャーに入れない
井筒高雄さんが登壇し、パワーポイントを見せながらの講演となりました。
壇上には日の丸に寄せ書きしたものが飾られ、そこには「宮寺」と書かれています。
「旧姓は宮寺と申しまして、3人兄弟の三男坊です。妻が長女なんで、自衛隊を辞めた後に妻と出会い、結婚するときに井筒となりました」と語られ、自衛隊のレンジャー教育は、井筒さんがいた頃は「長男は入れない」という話につながっていきました。
「レンジャー教育の訓練は、命を落とすかもしれないという現実があり、長男は家を継がなければならないので、死んだときに困る。次男、三男ならレンジャー教育へ行ける仕組みがありました。私は三男でしたので、行ったんです。そして3か月のレンジャー教育を受け、なんとか死なずに終えました。
今日は、果たして防衛費を増やしたら、日本の抑止力が上がり、中国や北朝鮮、ロシアを止めさせることができるのかについて、税金だけの問題ではないことも、お話ししたいと思います。」
■PKOをきっかけに自衛隊を退職
自衛隊に入ったのは、マラソンランナーになりたかったからです。埼玉の朝霞駐屯地に、自衛隊体育学校というのがあり、そこの陸上班に入り、前回の東京オリンピックの円谷幸吉さんのようになるのを夢見ていたんです。トライアルで半年間、適性があるかどうかトレーニングを受けたんですが、実力がなく、体育学校の本学生になれずに、一般部隊に戻されました。そして、マラソンをやっていて体力はあるし、三男だからというので、レンジャー教育へ行かされました。
その後、1992年にPKO法(国際平和協力法)が成立し、93年に自衛隊がカンボジアに派遣されます。現場サイドの人間からすると、停戦している・していないというのは、国内の都合だけの話であって、海外の紛争地域に戦闘服というユニフォームを着て武器を持って行って、敵が撃つまで撃ってはいけないとか、住民を守れ、だけどこっちから攻撃してはいけないなんて言われても、どうやって住民を守るんだ、俺たちは犬死するしかないのかという、そういう状況が生まれました。
それは今も変わっていません。私は、そこまでして自衛隊を出す必要があるのかと思うようになりました。
そもそも自衛隊に入るときは、専守防衛に対してときには命を顧みないという契約をするんです。
自衛隊はもともとは警察予備隊としてできた組織です。警察には「警察比例の原則」というのがあります。
【注・警察権の発動に際し、目的達成のためにいくつかの手段が考えられる場合にも、目的達成の障害の程度と比例する限度においてのみ行使することが妥当である、という原則】。
つまり、犯罪者に対して、その犯罪者が人の命を取ろうとしているときでないと撃ってはいけないという原則です。自衛隊も、その警察比例の原則に基づいた武器使用なんです。
その状況のままで海外でも、PKO、つまり国連の平和維持のための軍事作戦に参加するのはどうなんだろうと思うようになりまして、最終的に依願退職しました。
【その後の経歴は、大阪経済法科大学(95年の阪神淡路大震災に救援ボラインティア)、会社員、県会議員秘書、市議会議員、会社員、参議院議員秘書、アクティビスト(安保法制問題など、全国及び韓国で講演活動)、衆議院議員政策秘書、会社員→アクティビスト(沖縄タイムス・コメンテーター、講演活動など)】
■レンジャー教育の実態
続いて、レンジャー教育とはどういうものなのかが、語られました。
3か月間の訓練で、前半が「基礎」、後半が「行動」となります。
基礎では体力訓練がなされ、「かがみ跳躍、ロープ渡り、ロープ登り、ハイポート(小銃を両手で持ち上げた状態で行う長距離走)、20キロ走、炎天下で小銃を携帯し戦闘服着用の完全装備」、そして「生存自活」として「生きたカエルや蛇、ニワトリを解体して食べる」ことも行ないます。
後半の「行動」は、「実践訓練」です。「爆破、襲撃、斥候、隠密処理、通信技術(無線機での戦術交話、手信号など)、野戦築城、潜伏、ヘリボーン、舟艇潜入、武装水泳、緊急脱出、夜戦、山岳戦、対尋問行動」
「隠密処理」は「暗殺」、「対尋問行動」は「拷問」のことです。
会場を驚かせたのは、ヘビのさばき方の説明でした。そのヘビも焼くと煙が出て敵に居場所がわかってしまうので、ナマで食べるそうです。
訓練中の前半は1日3食ですが、後半になると1食。
「こういう厳しい訓練なので、レンジャーの成り手がいません。この3か月間は生きて卒業できる保証はありません。なるべくならやりたくないというのが、陸上自衛隊の現場の実態です。
これから戦争するというのなら、最低でもレンジャー教育を出てから戦場に行ってもらわないと、今のロシアのように、行きたくない人が行って、士気が上がらず、命令通りに行動できず、ただただ死んでいくという、惨憺たる状態になります。
ですから、自衛隊の現場サイドから言えば、政治の暴走を何とかしてくれというのが偽らざる思いです。
【レンジャー教育の映像が流されました】
こういうレンジャー教育に行きたくない人が、だいたい11万人。レンジャー教育を受けた人は、トータルして2万少し。3万人はいません。
これではとても戦争はできまません。」
■戦争のリアルを伝える活動
井筒さんがいま携わっている「ベテランズ・フォー・ピース」が紹介されました。
1985年に創設された、従軍経験のある米国民の元軍人(ベテランズ)を中心とした国際的な平和団体で、国連NGOとしてICANとも連携しています。映画監督のオリバース・トーン氏やオノ・ヨーコ氏らも含めた市民会員が約8000人いて、全世界に120以上の支部を有しています。
日本には、「ベテランズ・フォー・ピース・ジャパン」が2017年6月に結成されました。「武力で平和はつくれない」「イデオロギーよりリテラシー」を合言葉に世界中の平和を願う元軍人たちと連携し、戦争のリアル、PTSD、コストを伝えるために結成された日本の元自衛官と市民の団体です。
取り組んでいることとして、
①戦争のコストに対する国民の意識を喚起する
②政府が公然と、あるいは水面下でおこなう他国への内政干渉を阻止する
③軍拡競争を終わりにし、核兵器を減少させ、最終的に廃絶する
④元軍人や戦争の犠牲者のため、正義を追求する
⑤国家政策の手段としての戦争を根絶する
があります。
井筒さんは、語ります。
「『イデオロギーよりもリテラシー』ということで、戦争をちゃんと考えてコスト計算をしよう、戦争をするといくらぐらいかかるのかを考えようとしています。いま、岸田政権は、防衛費を増やして11兆円にしようとしています。しかし、戦争が始まってしまうと、とてもそんな額ではおさまらない。それを皆さんに皮膚感覚でわかっていただきたい。
もうひとつ、兵士は戦場から戻るとほとんどPTSDにかかります。世界最強と言われるアメリカ軍では、だいたい、1日に20人くらい、年間で8000人くらいが自殺をしています。それがアメリカ軍の兵士の実態です。今後、日本でも自衛官がそういう状況に置かれると認識をしていただきたい。
私たちが一番力を入れているのが、『いかに戦争をさせない』かに重点を置いて行動しています。」
自己紹介と、レンジャー教育、ベテランズ・フォー・ピースの紹介だけで15分以上となり、ここから、いよいよ本題です。
■安全保障の概念
安全保障をイメージしたとき、軍事のことだと考えていると思いますが、食料問題、エネルギー問題、コロナ・ウィルスの問題など、私たちの生活を脅かすもの全てが、安全保障という概念の中にいろいろ複合的に巻き込まれているわけです。
つまり安全保障とは、国家の在り方にかかわる問題です。安全保障政策の中で、軍事は重要な位置を占めていますが、軍事がすべてではない。
しかし、どうも国会の審議や報道などを見ると、軍事ばかりをクローズアップしています。「台湾有事は本当に起きるのか」「中国はやばいよ、北朝鮮もやばいよ」「ロシアはウクライナが終わったら今度は北方四島かな北海道かな」といった話になってしまう。
しかし、そういうことだけが安全保障の問題ではありません。
中国とは経済的な結びつきが強いし、天然ガスを含めてロシアからのエネルギーの供給がないとやっていけない関係にあるわけですから、軍事面だけを見るのではなく、冷静に見極めていく必要があるんじゃないか。
軍事バランス論や対抗戦術ばかりが、安全保障論として議論されていることを危惧します。
■アメリカが儲かる仕組み
2017年、北朝鮮とイランの核疑惑がありました。北朝鮮が日本にバンバンとミサイルを打って、デモンストレーションをしていました。そのときアメリカは、周辺国であるポーランド、トルコ、ルーマニア、スペインに米国の地上配備型ミサイル防衛システムを買わせています。
これが、GMD構想(Ground-based Midcourse Defense)で、「北朝鮮やイランの弾道ミサイル攻撃から米国本土を守るための地上配備型ミサイル防衛システム」のことです。
アメリカ本土を守るために、韓国と日本は、ミサイルを配備して、アメリカに届く前に撃ち落とせよというものです。そのミサイルはアメリカから買わされるわけです。日本は買いました。
しかし韓国は、アメリカの本土防衛なんだから在韓米軍が自分たちのお金で配備しろよと言って、断わりました。アメリカはTHAADミサイルを在韓米軍基地に自前で置いて、防御態勢をとっています。
GMD構想の目論見とは、アメリカの国益、つまりいかに軍需産業を儲けさせるか。アメリカの防衛にも寄与させるために、その周辺国にアメリカの武器を買わせるものなんです。
■「台湾有事」は「台湾戦争」のこと
さて、いま「台湾戦争」と言われています。これは、正しくないんです。「有事」というのは「戦争」ですから。ただ「戦争」と言うと、憲法の問題もあってややこしくなってしまうので、「有事」という言葉を使って、戦争の準備を進めているに過ぎないんです。
その台湾戦争をどうするか。先ほどのイランと北朝鮮の核疑惑のとき、アメリカは周辺国にアメリカの武器を買わせました。ドイツには指揮・統制センターを配置し、ポーランドやルーマニアはイージス・アショア、スペインにはイージス艦、トルコにはレーダーを買わせました。
アメリカは危機を煽りながら、自国の軍需産業を儲けさせ、景気を良くする。こういうことを含めて、したたかに外交戦略、安全保障政策をやっています。
そういう流れで、台湾有事も見てもらうと非常にわかりやすい。
■ウクライナへの装備品は武器輸出の始まり
2017年にこれだけ周辺国にアメリカの武器を買わせて、「イランと北朝鮮やばいよね」と言っていましたが、どうなったか。6年たった今でも、イランはアメリカを攻撃しないし、北朝鮮も攻撃していない。煽るだけ煽って、儲けたのはアメリカだけです。
北朝鮮がこれからどうなるか、台湾がどうなるか、それはまったく分からないのですが、実態としてはそういうカラクリがあると思っていいです。
そういう中で、昨年2月24日にロシアがウクライナに侵略をして戦争が始まったわけです。日本は、NATOなど欧米がウクライナ支援をしているからと、自衛隊のヘルメットや防護マスクなどの装備品を送りました。本来は、防衛装備移転三原則があって送ってはいけないものでした。それを、「民生品だからいいんだ」とか言って、送りました。
ヘルメットとか防護服とか防弾チョッキというと、たしかに自分を守るためのもののようですが、ウクライナの市民が身を守るために使うのではなく、戦場にいる兵士がロシア兵を殺傷するために使うものです。
このような装備品を、去年の3月、4月に、民間機まで使って輸送しています。
今後は、閣議決定された安保関連三文書の改訂で、武器輸出をもっと本格的にすることが決まっています。
これをそのままやっていいのか、これが問われている問題です。
■防衛費、GDPの2%ルールの実態
NATO軍は、各国がGDPの2%を防衛費にするルールがあると言われていて、日本もそれにならうことになります。
NATOの加盟国は30カ国あるんですが、2021年の年次報告書によると、国防費支出を国内総生産(GDP)比の2%以上という目標を達成したのは8カ国だけでした。米国、英国、ポーランド、クロアチア、ギリシャ、バルト3国です。フランスは2%をわずかに下回り、ドイツは1.49%です。
さらに、NATO基準の国防費には、退役軍人への恩給費、PKO(国連平和維持活動)関連経費、海上保安の予算などの経費も含まれています。日本では恩給は総務省、PKOは外務省、海上保安庁は国土交通省の予算です。これらをひっくるめて2%というのが、NATOの基準です。日本の予算を、NATO基準に直して計算すると、2021年度の金額は約6.9兆円、対GDP比で1.24%程度です。
対GDP比2%は11.2兆円ですから、あと4.3兆円増やさなければならない。
しかしこれは、4月までに決まる当初予算の数字で、補正予算も組まれると、もっと増えます。
このように、税金の使い方の問題の方だけに関心を向けるのが、皆さんに対する政府のアプローチのようですし、報道もまるで政府広報のような感じになっています。
■安保3文書の何が問題か
安保3文書は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」です。
一番の問題は「国家安全保障戦略」です。ここでは、中国を「戦略的な挑戦」、北朝鮮を「差し迫った脅威」、ロシアを「強い懸念」と位置づけ、軍備増強こそが「抑止力」になると公表し、さらに「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」と強調しています。
危ないから、軍備を備えければダメなんだと言うんですが、果たして軍事を備えるだけでこの国は大丈夫なのかと言いたいところです。
とくに、私が驚いたのは、「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」というところです。私たち国民は、この3文書の改訂前に、いつ決意を求められたんでしょうか。
まったく一方的に、「政府はこうやる」と言われるのは結構ですが、国民は誰もそんな決意をしていないんじゃないか。私は、ここにすごく違和感を感じています。
岸田さんって、言ったことをやらなくて、言わないことやってしまう。その前に言っていた、所得再分配や所得倍増をやれよっていう話です。なかなか実態はそうではない。異次元の子育て政策でも、防衛予算でも、何に使うか精査して積み上げていかなければならないのに、数字が先に来ています。
■米軍との一体化が唯一の解決策か
アメリカ軍と自衛隊の「相互運用性」を強化するために、アメリカ軍と自衛隊の一体運用を可能にする組織の創設、陸海空の3自衛隊舞台の統合運用を担う「総合司令部」を設置するとありますが、自衛隊と米軍の一体化が「唯一」の解決策ではないはずです。
自衛隊は、組織のなかに指揮官ポストがたくさんあるんです。たとえば、普通科連隊では、連隊長がいて、その上には旅団長がいて、その上には師団長、その上にもたくさんのポストがあります。だから、戦争をしようとすると、撃てと命令するまでの手続きがたくさんあって、戦争にならない。だからアメリカから「お前らは俺たちのパシリとして動くんだから、一括で受けるようにシステムを変えろ」と言われて作ったのが、統合司令部です。
この統合司令部は、陸海空も含めてまとめ一括で指示を出して、その決定通りに動く。その決定をする、総司令部はどこかというと、アメリカ軍です。
それが、統合司令部です。
■防衛産業で景気を良くしようとしている
岸田さんが目指しているのは防衛産業でこの国の景気を良くしようということです。
たとえば、戦闘機は三菱重工を筆頭にして1100社の下請けの中小企業があります。戦車は1300社、護衛艦関連は8300社です。
戦闘機や戦車の得意先というか市場はどこかというと、防衛省しかないので、先行きがまったく明るくない。
そのため、防衛産業のなかには、撤退する企業が出ています。航空機用タイヤの横浜ゴムは2009年に、軽装甲機動車の小松製作所は2019年に、次期機関銃の住友重機械工業は2021年に撤退しました。
そこで撤退させないため、育成するために、儲けるために販路を海外に作るから、輸出禁止のルールを見直すと、関連3文書に書かれています。
さらに、民間ではできないので、国有化も始まります。横浜ゴムが撤退を決めると、待ったをかけて国有化して、委託先を横浜ゴムにするから、引続き作ってくれと、なります。
自衛隊だけでなく海外にも売れるようにして儲けさせるから、今後も安定的にちゃんと作ってくれとなるわけです。
アメリカは、常に戦争と紛争を世界のどこかに作って軍需産業が儲かる仕組みです。日本もこれからは、戦争と紛争があって、兵器を売れる仕組みのなかで販路を拡大して儲けようということです。
しかし日本の武器は、これまで実戦では成果をあげていません。戦争をしていませんから。なので、台湾戦争も含めて、どこかで使って、メイドインジャパンの武器のクオリティが高いという信用をつけなければならない。
だから自衛隊は、これから頑張って戦争をするしかないんです。
安保三文書にある「防衛移転三原則(武器輸出)の見直し」とは、このようなことを言っているとしか、言いようがないんです。
■台湾戦争になったら、先島諸島と沖縄本島からの住民の避難は可能なのか
台湾で戦争になると、近い沖縄から住民を避難させなければなりません。一応、避難計画があります。
与那国町は人口1697人ですが、船で1000人、飛行機で300人
竹富町は4300人ですが、船で1日・800人避難させるそうです。
自衛隊はエスコートしません。行政、警察と消防でやるしかない。しかし島に警察官は1人しかいません。それでどうやって港まで運ぶのか。飛行機にどうやって乗せるのかなど、いろいろな課題があります。
3月から、沖縄県が自衛隊・警察・消防など関連機関と、どうやって住民を保護するのか、図上演習、机上で課題の洗い出しをしていくと言っていますが、普通に考えたって、できない、現実的にありえないと分かる話です。こういうことを平然と言ってのけている。
かりに、福岡県とか鹿児島県まで6000人とか8000人を避難させることができたとして、どこに住まわせるんですか。鹿児島県、準備しているんですか。
そのとき国会では、「戦争を辞さず」とか言っているかもしれませんが、国民の生命と財産をどうやって守る手立てをしているんですか。頭が痛くなってきます。
今政府がやってるのは、自衛隊基地の、キーとなる司令部を地下化するとか、そういうことにきちんと予算をつけるということです。しかし、先島諸島とか沖縄本土の人たちからすると、「俺たちの生命と財産を守るためには、自衛隊の増強をやめてくれよ、ミサイル基地設置をやめてくれ」ってことです。そういうのがあるから、狙われて攻撃されてしまう。
だけど、この国のおかしなところは、そのリスキーな人たちのところに、一番のリスクを押し付けていながら、国会で議論していることは、「国民の生命と財産を守る」なんです。
沖縄県、先島諸島に住んでいる人は、日本国民じゃないのかって話です。そういう矛盾にも、まったく答えようとしていません。
■専守防衛から脱却したい
沖縄は、普天間基地の問題でも、知事選で反対派が何回勝っても、何度いやだと言っても無視され続けています。「在日米軍基地の負担軽減をしなければ」と言いながら、それ以上に自衛隊を増強して、軍事要塞化しているのが先島諸島です。
これには、日本の安全保障上の問題でいうと由々しき問題です。北朝鮮やロシアが危ないと言っているのに、沖縄だけに軍備増強を集中しているのは、安全保障上の観点からも、大問題です。
この沖縄問題も含めて、台湾有事が本当に戦争になるかどうかはわかりませんけれども、とにかく「専守防衛」から脱却をしたいんですね。
「これからは専守防衛じゃない、アメリカが行けと言ったら、俺たちは行くんだ、軍事活動がしやすいようにするんだ」と、加速度的に流れを作っている状況です。
■日本はアメリカの防波堤
なぜ日本が台湾戦争で活用されるのか。単純に、ワシントンとかニューヨークあるいはハワイやグァムが攻撃されないために、日本はアメリカの防波堤にさせられるんです。
なぜ先島であれだけ増強していくかというと、アメリカの軍事コストを削減して、その分を日本の自衛隊に頑張ってもらい、さらにアメリカの兵器を買ってもらって、アメリカの軍事予算の削減をするためと思っていいでしょう。
少なくとも、日本の安全保障というのは、日本単独で方向性を決めたり、何を買うのかを決めるのではなく、アメリカの意向に沿った、あるいは日本政府がアメリカを忖度しながら、決めている。
トマホークなんて、イラク戦争のときに使っていたもので、今のミサイル技術からすると、期待しない方がいいというか、ほとんど期待できないミサイルです。そういうものを買わされる。在庫一掃セールというか、型が古くなりもういらなくなったものを買わされるのが実情です。
自衛隊が配備されれば、守ってくれるだろうと思うかもしれませんが、たしかに、災害のときは、自衛隊は出動しますが、戦争が始まったら、災害派遣も含めて、国民を助けることはしません。
それどころか、指定公共機関といって、民間でも、空港関係、宅配を含めた輸送業、医者、土建業、NTT、JR、そういう人たちは国民保護の対象から外れて、自衛隊のために協力しなければならないんです。今年の4月1日時点でそういう指定公共機関が133あり、そういう人たちは、自衛隊に「協力」しなければならない、つまり自衛隊のもとに集まってしっかりと戦争で戦わなければならないんです。
【注・国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)
第六条 指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事 態等への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する。】
■敵基地攻撃能力を保有する意味
「敵基地攻撃能力の保有」は大変な問題です。専守防衛や「軍事大国とならない」といった基本政策との隔たりは大きいし、政府の対応次第では、憲法の根幹である平和主義が骨抜きになりかねません。
「敵基地攻撃」と言うのは簡単で、ミサイルを打つところを攻撃するとか、輸送のところ、通信施設、司令部などを攻撃すると言っています。
これを日本に置き換えてみると、攻撃されるのは沖縄ではなく、一番のメインコントローラーは国会、総理官邸、そして市ヶ谷の防衛省です。こういうところが狙われることになります。
ミサイル発射基地は地上とは限らず、船からも打てますし、潜水艦からもできます。いろいろな想定ができます。
そして北朝鮮がミサイルを発射しても、日本は判断できないんです。韓国とアメリカからの情報があって、初めて発射したと判断できる。
その日本がミサイルをたくさん買っても、単独では、敵基地攻撃はできないんです。
北朝鮮のミサイルは韓国とアメリカから、中国だったらアメリカから情報をもらわないと、まったく動きようがないというのが、日本のミサイル防衛の一番の弱点と言えます。
こっちが狙われる前に敵基地を叩いてしまえばいいと言うのですが、それをするということは、東京のど真ん中にもミサイルが来ることを意味します。自衛隊の航空自衛隊の司令部は横田で、横田には在日米軍の空軍司令部もあります。
陸上自衛隊で言うと、朝霞駐屯地に陸上総隊がありますが、パソコンにたとえればCPUにあたるメインは、在日米陸軍のベースキャンプである座間に、米軍の司令部と隣り合う形で、あるんです。在日米海軍の司令部は横須賀にあります。
ですから、台湾戦争になったら、本土は関係なく、先島諸島と沖縄だけですむという話ではありません。先島も沖縄も77年前の先の大戦のような状況にならざるをえないのですが、それだけではすまないと思っていただきたい。
首都を落とさない戦争はありません。ロシアも首都キーウを狙いました。
そして、死ぬのは兵士以上に、一般の国民です。台湾戦争でやばいのは、沖縄の人たちだけでなく、ここ東京にいる皆さんも死ぬんだということをご理解いただきたい。
■トマホークでは日本を守れない
政府は今年度予算で2113億円を計上してミサイル「トマホーク」を400発買うとしていますが、実は指揮システムや目標をセットするシステムは含まれていません。そういうシステムはアメリカ軍しか持っていません。アメリカが「そこを打て」と言って、衛星のアクセス権を日本にくれない限りは、日本は発射できないんです。
それでいて「日本の防衛は大丈夫です」と言っている。主権国家と言えますか。そんなことで、どうやって日本の防衛は担保されるんでしょう。
そういうタイプのミサイルなんです。それがトマホークの実態で、日本で単独で打てないものを持つなよと言いたい。アメリカが自分のお金で在日米軍基地に置けよと、私は思ってしまいますが、そういった議論が国会ではまったくなされないのは、由々しき問題です。与野党とももっと掘り下げて、国民的議論を巻き起こすぐらいの問題提起をする必要があると思います。
総合防空ミサイル能力を高めることはいいとして、石垣島に地対空ミサイル部隊を配備するとか言っています。17メートルもあるトラックからミサイルを打つものなんですが、打った瞬間に逆算されてすぐに弾が飛んでくるから、トラックごと移動しなければならない。ところが、石垣や与那国は広大な島ではないので、17メートルのトラックが移動できる範囲は限られています。島ごとボコボコになる。シェルターをひとつやふたつ作ってなんとかなるという話ではありません。
宮古島、石垣、与那国の住民の皆さんを保護します、逃します、守りますと言っていますが、どうやって守るんですか。全然守れる話にならない。
ミサイルは、ゲームチェンジャーと言われる「極音速ミサイル」に進化していて、これは、いまの米軍と自衛隊では撃ち落とすことはできません。
原子力潜水艦、地下、地上に移動式のミサイル発射台があり、どこから飛んでくるのかわからない。
日本はPAC 3で迎撃すると言っていますが、そんな御伽噺の話をしてても防げないのが実情です。北朝鮮から、東京まで7分か8分でミサイルは飛んできます。PAC 3は打つための準備に20分かかるんです。しかも、北朝鮮が打ったという情報は、日本は韓国とアメリカに教えてもらうまで分からない。とっくに着弾しています。
そういう現実を見極めていく必要があります。
■原発をどう守るのか
「飽和攻撃」といって、いろんな種類のミサイルをバンバンと打たれたら、いまの在日米軍と日本の防衛能力では、すべてを迎撃することは至難の技です。
だから、数を打たれたら、この国は終わりです。なぜか。太平洋と日本海に原発を並べているからです。
これから台湾戦争だと言っている一方で、原発は60年に延長する、脱炭素社会では原発はキーになるから新規建設だとか言っている。この国の安全保障は大丈夫かと言いたくなります。
九州や中国地方の原発が攻撃されたら、偏西風の風で、東京まで放射能がきます。
うちの近くにインド大使館があるんですが、福島の事故のときは、爆発の翌日には避難していました。各国の大使館も同じです。それが現実です。
残念ながら、日本が戦争という選択をしたら、相手はミサイルを打たなくても、原発を攻撃するだけでいいんです。あるいは原発を直接攻撃するのではなく、送電線を切るだけでもいいし、冷却装置の排水管のパイプを壊すだけでも、原発をメルトダウンさせて爆発させることができます。
日本海と太平洋の沿岸に並んでいる原発が、一番リスクの高い施設です。これをどうやって守るのか。ようやく、機動隊、つまり警察が警備を始めるようになったところです。
2017年に、北朝鮮が打ってきたときのPAC3の配置を見ると、原発を守るようになっていません。本来なら、原発を守るのに特化すべきなんですが、市ヶ谷の防衛省とか三沢基地に配備されています。原発が軍事攻撃されることを想定していないんです。
フランスには日本とほぼ同数の56基の原発があります。どうやって守っているか。
2001年9月11日のアメリカの同時多発テロが契機に、原子力発電所や使用済み燃料の再処理工場など、原子力関連施設の警戒態勢を強め、対空ミサイルシステム、上空監視用レーダーサイトが据え付けられています。戦闘機が原発に突っ込んでも防御できる分厚いコンクリートの防御壁を作っています。
使用済み燃料の再処理では世界最大規模の年間約1600トンの能力を持つラ・アーグ再処理工場は、周囲には高圧電流を流した二重のフェンスが張り巡らされ、銃を携帯した警備員約200人が24時間態勢で警戒し、不審者が侵入すれば、射殺することも認められています。
これくらいのことをするのならまだしも、日本は性善説に立って原発は攻撃されないことにしています。
原発を稼働させながら、台湾有事に対処できるのか。頼むから、まじめに考えようよと岸田さんには言いたいです。
暗くなってしまって申し訳ないんですが、この現実に向き合って考えて、行動してもらうしかないんです。
■食料自給率、エネルギー自給率の低い国が戦争をできるのか
日本の食料自給率をカロリーベースでみると、わずかに37%前後しかありません。63%が海外からの輸入です。中国と戦争するわけですから、中国からの輸入は止まります。それだけでなく、輸入の99.7%は海上輸送で、シーレーンを通ってきますから、台湾有事になれば、中国は海上封鎖するので、どこからも入ってこなくなります。
戦争になったら、1億2000万人の日本人は、一日も食事をまともに食えなくなります。
そういうことも考えてほしい。それくらい、食料はありません。
エネルギー自給率も、2019年で12.1%で、OECD諸国でうしろから2番目です。
今ですら、ウクライナ戦争の影響を受けて、ガソリンが高くなっていますが、台湾有事になったら、その比ではありません。
中国と喧嘩するんですから、50兆円、60兆円の経済的な損失も覚悟しておく必要があります。私たちの生活はハイパーインフレくらいの大変なことになります。
エネルギーが12.1%しかなく、戦争できるんですか。ロールプレイングゲームなら課金すればなんとかなりますが、そういう世界ではない。もう少し真面目に食料やエネルギーのことも考えてほしいのですが、国会の論戦でもそういうことは触れません。
石油は備蓄されていると思うでしょうが、政府と民間と、それから産油国にストックがあるんですが、資源エネルギー庁のデータでは、去年の4月で全部合わせて備蓄は7.5ヶ月分しかありません。これで戦争をしながら、皆さんの生活も含めてやりくりするということなんです。
日本に石油をバックアップしてくれる秘密協定が何かあるのかなと思いたいんですが、どうでしょう。
ガソリン料金が上がるどころじゃなく、クルマを動かすこともできなくなると危惧するのですが、こうしたことなんかも全くお構いなしです。
どうするんでしょうね。「東京だけでも電気を節約しましょう」と、小池都知事は「タートルネックを着てください」とか言っていました。ウクライナ戦争の影響ですら、こうなってしまう。それが戦争当事国になったら、いまのウクライナと同じことになり、電気が止まって焚き火をするしかないですよ。
だからウクライナに起こっていることが、これから私たちが直面することだと思って、間違いないです。
■自衛隊の隊員定員割れ
ウクライナでは、18歳から60歳まで動員をかけられ、男性は国外を脱出しては駄目、武器を持って軍隊と一緒に戦うことになりまして、一生懸命頑張っていますけど、日本でも当然そういうことになるでしょう。
今の陸海空の自衛隊は、防衛省のキャリア官僚を合わせて約25万人なんですけれども、その体制だけでは戦争はできません。さらに定員割れしていまして、陸海空それから統合幕僚監部を合わせて定員に対して93.4%です。
これだけいれば問題なさそうに見えますが、そうではない。自衛官の身分は特別職国家公務員で、定年まで在籍する非任期制と、精強性を維持するため18歳から32歳までを募集対象とした任期制に分かれます。
その非任期制自衛官は79.3%しかないんです。これから台湾戦争になると、死んでもコストの安い人たちを多く抱えておく必要があります。
ところが、自衛官の平均年齢も高くなり、35.9歳です。若い隊員がいない。
しかも予備自衛官にいたっては、55歳になっても来てもらっていいですという話になります。残念ながら日本と組みたいという海外の軍隊はないと思います。
職業自衛官は32歳まで入れます。そこから訓練しても、いっぱしに動けるようになるまで、だいたい3年か4年はかかりますから、35歳とか36歳で現場に行くことになります。そんな年齢の人が戦争に行っても40肩で腕が動きませんとか、老眼が速くきたので近くが見えませんなんてことになります。高齢化した隊員をいっぱい増やしてどうするんですか。戦争になりませんよ。
防衛省にいらっしゃる方は、真面目に考えているのか。数合わせでどうにかなる話ですか。
今の戦争は、一国でしません。ウクライナの戦争も、NATO、アメリカがバックアップしています。台湾戦争になったら、現実的に一緒に戦うのはアメリカしかないと思います。NATOは来ない。ドイツなど中国との経済的な結びつきが強いので、武器の供給もしないんじゃないかと思います。ドライです。
そういう中で、アメリカ軍としても、使いものにならない高齢者の自衛隊を派遣されても困るでしょう。戦争をなめるなよと怒り、日米安保の信頼を破壊してしまうのではないかと思います。
自衛隊でメインパーソン、パソコンでいうCPUは、絶対に失ったら困る層です。
その下の中段には、戦略を考える人たちの言ったことを、「わかりました」と言って伝達する人たちがいて、その下に現場の中隊長・小隊長・班長がいて、さらに命令を下しながら若い人たちにやらせるんですが、ここは死んでも替えがきくんです。
戦争のときは、死んだときの保障という、コスト計算もしなければいけない。そういうこともひっくるめて、防衛予算のパッケージになってくるんです。
■軍事裁判所なしに戦争をしていいのか
1992年のPKO成立以降、ずっと棚上げにしてきた問題が、自衛隊員が犯罪を犯した場合、どうするかです。
ロシアの戦争犯罪がクローズアップされていますが、ウクライナ軍もひょっとしたら間違って市民を殺しているかもしれません。ありえるんです。今の戦争は、お互いにユニフォーム、軍服を来て、明確に敵だと分かるかたちで戦争をしません。
さらに、ロシアがそうですが、イラク戦争もそうなんですけどPMC、プライベート・ミリタリー・カンパニーという民間軍事会社もコミットしていて、非常にややこしい。
日本の自衛隊が台湾戦争で中国軍を殺したと思ったら台湾軍でしたとか、台湾市民でしたとなったとき、戦時国際法で戦争犯罪にひっかかる可能性があります。
日本には戦時のための法律がありません。刑法だけですから、私たちが人を殺すと殺人罪となり、放火をすると死刑までの刑がありますが、自衛隊も放火や殺人をするわけです。ただ、戦時国際法というルールがあるから、殺人罪の適用除外をされているにすぎない。ですが、対軍人の場合の話で、市民を殺してしまったら、適用除外になりません。
本来、軍は合法的に殺戮をする集団ですから、一般刑法よりもさらに厳しい、軍法で裁かれるのが、戦争するときのワールドスタンダードですが、この仕組みを日本は持っていません。
それなのに5年後には世界第三位の軍隊を持つんですよ。
アメリカと共に戦争をやるのはいいとして、自分たちが犯したルールをどうやって国際法上の観点から整合性をとって裁くのかということが、抜け落ちています。戦争をするのなら、その議論をしていく必要があります。
これをせずに本当に台湾戦争なんかやってしまった日には、日本は逆に世界から孤立してしまうと思います。
ドイツは軍事裁判所は持ちませんが、一般の裁判所で軍法的な裁判を行なっていますので、そういう形でいくのか、海難審判所のように、一般の裁判所とは別の形で裁くのか、議論をしておく必要があります。
軍事法体系、軍事裁判所の設置が必要になるんです。
ところが、防衛予算を倍増するのかしないのかにだけスポットが当たって、ことの本質の議論を掘り下げていかないのが実情です。
自衛隊が戦争をすると決めるのではなく、政治が決めます。皆さんが選んだ国会議員が国会で、戦争しますという議決をして、自衛隊は戦争に行くんです。
防衛予算を増額する流れに一方向ですが、本当にそのままでいいのか。私たちが生命と財産を守る、あるいはアメリカのお約束といってもいい自由と民主主義を守るために、戦争へ向かうという政治の進め方っていうのは、そこに大義があるのかないのかも含めて、しっかりと見極めてほしいなと思います。
■台湾有事のシミュレーション
アメリカのCSISというシンクタンクが、今年の1月9日に、2026年に中国が台湾を侵攻した場合の24のシミュレーションをまとめています。
その予想では、中国軍が台湾南部に上陸して、第三国が関与しない場合、3週間後に台南市・高雄市が制圧され、6週間後に台中市が制圧され、10週間後に台北の総督官邸が占拠される。台湾は苦戦を強いられる前に降伏する可能性もある。
では、第三国が関与した場合はどうなるか。第三国とはアメリカと日本です。
中国は戦闘機155機、主要な艦船188隻を失い、死傷者は約2万2000人。
アメリカは、空母2隻と7~20隻の主要な艦船を失い、死傷者は約1万人。
日本は、米軍基地が攻撃され、戦闘機11機と艦船26隻を失う。
台湾は、フリゲート艦22隻と駆逐艦4隻が全滅し、死傷者は平均約3500人。
こういう数字が出ています。しかし、この死傷者のなかには、地域住民の数は含まれていません。兵士の数だけです。
アメリカの空母は1隻約1兆円を超えますが、2隻を失うと、2兆円の損失です。さらに、平時でも5000人が乗りますので、戦争になったらそれ以上ですが5000人としても、2隻なら1万人以上が乗ります。1万人の死傷者を出すとわかっていて、バイデン大統領が戦争をすると言ったとき、議会が許可するか。アメリカはシビアですから、台湾有事のために空母2隻を失うリスクを負わなければならないとなると、本当に戦うのか疑問です。
日本は戦闘機112機を失うとありますが、これは空中戦をしてやられるわけじゃないんです。那覇や岩国など軍民共用の空港があるので、見たことがあるかもしれませんが、戦闘機が青空駐車しているんです。航空自衛隊の戦闘機はほとんどが青空駐車です。そこに、ミサイルが落ちてきて、112機やられるというのが、CSISのシミュレーションです。
つまり、那覇、嘉手納、岩国、横田などへミサイルが飛んできて、戦闘機がやられ、制空権なんて守れないんです。
さっきも言いましたが、中国がミサイルを打ったことも、アメリカに教えてもらわないと日本は分からないんです。日本のミサイルの数で中国のミサイルを防ぐことはできないんです。戦闘機をミサイル攻撃されても守れるような編隊を持っている航空自衛隊の基地の方が少ないのが実情です。
ほとんどが青空駐車なので、一発でアウトです。
こういうリアリティを関心を持って見ていただいて、知っていただいて、日本は本当に戦争しても大丈夫なのか、冷静に判断していただいた方がいいと思うんですね。
今年のはじめに日米の2プラス2の会見で、吉田陸上幕僚長は「名実ともに抑止力を高めるものだ」と自画自賛しました。沖縄本島の自衛隊増強と、南西諸島、先島諸島への自衛隊の配備増強、ミサイル防衛を評価しました。
ところが、同じ会見でオースティン米国防長官は「台湾海峡で航空活動の増加が見られる。台湾周辺でも水上艦の活動増加が見られる」と指摘しましたが、「ただ、それが侵攻に差し迫っていることを意味するかは、かなり疑問視している」と冷静に述べています。
それからCSISとは別に、ニューヨークにあるユーラシア・グループという、国際政治や経済に深刻な影響を及ぼす地政学リスクを予測し、国際政治上の危機分析を専門とする調査会社が、2023年の「10大リスク」をまとめた報告書では、インフレやロシア、中国の脅威が上位で、台湾有事は、米中両国が相互に経済依存関係を深めていることなどから、ランク外、2年連続で「リスクもどき」となっているんです。
ですが、このユーラシア・グループのレポートは日本の報道ではあまり取り上げられていません。
必ず、右から見たら左からもう見てみよう、上から見たら下からも見てみるのが大事です。
■中国との貿易総額38兆円を失っていいのか
最後に、経済のことにも触れておきたいと思います。
日本の輸出先のトップは中国です。その他にも韓国、台湾、香港と、東アジアが生命線です。輸入も中国がトップです。中国と喧嘩したら、日本はアウトです。
アメリカとオーストラリアと台湾かも多い。東シナ海、南シナ海が海上封鎖されたら、輸入がストップします。輸出もできません。さあ、どうやって経済活動をしていきますか。
2021年の日中の貿易総額は過去最高の38兆円なんですよ。日米貿易の総額のの1.6倍です。これがなくなったら、どこから稼ぐんですか。インドからですか。どこかと協定結んでいるんですが、条約を作りましたか?
中国抜きにして、日本は経済的に生きていけないと、私は危惧しています。
アメリカとは切れたとしても、中国とは切らない方がいいんじゃないか。専制国家だからとか制度が違うと言うかもしれませんが、制度が違ったら対話もしない、国交正常化もしなくてよくて、力には力をという対抗手段だけでアプローチすればいいという問題ではない。違いがあるからこそ、対話をしてアプローチするしかないのではないか。そう思っているんですけど、どうでしょうか。
専守防衛とはなんぞやと言ったら、相手にいかに私たちは脅威ではないと明確に示す必要があると思うんです。戦争する動機をなくさせることに、日本という島国は注力すべきだと思っています。
抑止力には抑止力ということでやっても、国力が違いすぎるんです。戦力が違いすぎるんです。防衛予算の金のかけ方が違いすぎるんです。「ドラえもん」のジャイアンとのび太くんどころの話じゃないくらい差があります。
米軍と一体化すれば、防衛予算を倍増すれば何とかなるという話じゃないんです。
いかに外交で戦争を遠ざけるか、回避するか。外交努力を重ねていかないと、よろしくないのではないかと思います。
韓国や中国と国交正常化をすること、ASEAN諸国と連携しながら、どうやって中国を封じ込めると言ったらおかしいですけど、よりソフトランディング、軟着陸できるような解を見つけるかということに、日本は汗をかくべきなんだろうな、それしかこの国が生き残り、皆さんの生命と財産を守ることに到達しない、と考えています。
~質疑応答編に続く~