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【活動報告】第12回「敵基地攻撃と日米一体化、防衛費倍増は国民負担に?!」講演篇

第12回は、「敵基地攻撃と日米一体化、防衛費倍増は国民負担に?!」と題して、武蔵野商工会館で開催されました。「安全保障・防衛・外交」をテーマとするのは、これが4回目(第7回、第8回、第9回)となります。
「敵基地攻撃能力の保有はなぜ、決まったのか」「防衛費の対GDP比2%の背景や意味は」「米国との関係に変化はあるのか」等のテーマをもとに、防衛と外交のプロによる対談方式で開催しました。
登壇したのは、ジャーナリストの半田滋さんと、外交の専門家で「新外交イニシアティブ代表」の猿田佐世さん。猿田さんは、高崎市で開催された第8回に続いての登場です。

半田滋
防衛ジャーナリスト、元東京新聞論説兼編集委員、獨協大学非常勤講師、法政大学兼任講師、海上保安庁政策アドバイザー。
防衛省・自衛隊、在日米軍について多くの論考を発表。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、「零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争」(講談社)、「日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊」(岩波新書)、「僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)などがある。

猿田佐世
ND(新外交イニシアティブ)上級研究員・弁護士(日本・ニューヨーク州)・立教大学講師・沖縄国際大学特別研究員。
猿田さんの詳しい経歴とNDについてはこちらを御覧ください。
https://www.nd-initiative.org/members/117/

最初に今回のコーディネーター、武蔵野政治塾運営委員の松下玲子さん(武蔵野市長)からの挨拶。

■松下玲子さんの挨拶
今日は、半田滋さんと猿田佐世さんをお招きしました。それぞれおひとりずつ、たくさんのお話をしていただきたいのですが、対談という形をとりました
お2人の対談を通じて、どんな化学反応が起きるかが楽しみです。
今回のテーマは「安保3文書」です。日本がこれからどうなっていくのか、防衛費が増えて敵基地攻撃能力を持つことで、日本は本当に安全で平和になるのか。そうしたことを皆さんとともに考えていきましょう。

■半田滋さんの自己紹介
防衛ジャーナリストの半田滋です。私は東京新聞の記者として30年以上ずっと防衛省・自衛隊の取材を、安全保障政策や在日米軍のことなども記事にしてきました。防衛省の担当のきっかけになったのが、ペルシャ湾への掃海艇派遣、つまり自衛隊が初めて海外に出て行った活動でした。これをきっかけに自衛隊はどんどん海外活動を始めています。
この派遣の後には、国連平和維持活動協力法に基づくカンボジアでのPKOの派遣など、国連の旗のもとでの国際平和維持活動が増えてきました。
しかし2000年代に入ると、アメリカの同時多発テロをきっかけにして、我が国の独自判断による自衛隊海外派遣としてインド洋における洋上補給が行なわれたり、アメリカのイラク戦争に関連した派遣が行なわれたりと、だいぶその活動が変わってきました。
大きく変わったのは第2次安倍政権になって、今まで憲法上行使できないとしてきた集団的自衛権の行使、つまり自衛隊が海外で武力行使ができると閣議決定がなされて、それを法的に裏付ける安全保障関連法が制定され施行されたことです。
これにより、それまでの自衛隊は専守防衛でしたが、海外で武力行使をできるようになり、昨年12月には、岸田文雄首相が敵基地攻撃能力の保有、それに使う長射程のミサイルを買うために防衛費を今の2倍に増やすと決めました。この財源は、はっきりしていませんが、おそらく皆さんに増税などの形で負担がのしかかってくる。
そもそも、敵基地攻撃などやって欲しくないと思う方もたくさんいるなかで、それをやるために国民負担を強いるというのは本末転倒ではないかと思っております。
今日は安保関連3文書と、最近の台湾を巡るアメリカの動きなどを、猿田さんとともに伝えていきたいと思います。

■猿田佐世さんの自己紹介
新外交イニシアティブの代表をしております弁護士の猿田佐世と申します。
最初に新外交イニシアティブの活動紹介をさせていただきますと、「訪米コーディネート」「調査・研究・政策提言」「シンポジウム・情報発信」の3つの柱があります。
【詳しくは、https://www.nd-initiative.org/about/】
政策提言としては、半田さんにも参加をしていただいて、昨年(2022年)11月に、「戦争を回避せよ」を作りました。
【会場では配布されましたが、ここで読めます。https://www.nd-initiative.org/research/11342/】

昨年11月の時点では、安全保障について、どんな内容の大改訂がなされるのか、ほぼ明らかになっており、敵基地攻撃能力を宣言するなんて愚作ではないか、外交で緊張を緩和していかない限り軍事力を高めても日本は安全にならないではないか、という提言をしました。
NDの活動の柱のひとつに「訪米コーディネート」とありますように、私は現場の半分がアメリカですので、アメリカで日本の安全保障政策の転換についてどういう議論がなされているのか、また、たまたま昨日まで一週間、韓国に行っておりましたので、韓国は台湾有事をどう見ているのかもお話ししたいと思っています。
前編
「安保3文書」の問題点は、「敵基地攻撃能力の保有」と「防衛費倍増」

■敵基地攻撃能力の保有とは

猿田
12月16日に閣議決定された「安保3文書」の改定について簡単にご説明ください。

半田
ひとつ目の大きな山は、「敵基地攻撃能力の保有」です。
「敵地攻撃」だと、おどろおどろしいので「反撃」と言い換えて「反撃能力の保有」と政府は言っています。「反撃」とは、一撃を受けた後にやり返すことですが、一撃を受けなくても先制攻撃が可能になっている点が、これまでと大きく違う。
これまで長い時間をかけてアメリカ軍と自衛隊の一体化が進んできましたが、さらに進むことになる。
もうひとつが、「5年以内に防衛力を抜本的に強化する」として、現在GDPの1%が目安の防衛予算を倍増することです。2022年度の防衛費は5兆4005億円ですが、GDPの2%に引き上げて、5年後には約11兆円にすることが決まっています。そうすると、今年から直近の5年間での防衛費は合計して43兆円になります。これまでの5年間と比べると17兆円も多い。
防衛費が極端に増加するというのに、財源が決まっていません。

■平和憲法と敵基地攻撃の整合性

猿田
新聞は「歴史的な変換」などと書いていますが、その割には国会で審議されないで決まり、メディアでも12月に入るまで騒がれませんでした。その後に、いろいろな問題が指摘されていますが、その大転換の意味について説明していただけますか。
一番気になるのは、憲法第9条との関係です。日本は「平和憲法」を持ち、それを誇りにしてきた国です。それなのに敵基地を攻撃するのは憲法上問題があるのではないか。政府は「合憲だ」と言っているわけですが、過去にどういった説明がなされ、今回はどんな説明をしているのでしょう。

半田
1956年2月に、当時の鳩山一郎首相が国会で、「他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地を叩くことは、法理的には自衛の範囲に含まれ可能である」と答弁しています。外交で決着せず、相手が弾道ミサイルを日本に持ち込んでくる場合、これを回避する手段が他にない場合には、その発射する基地を叩くことも自衛の範囲に入るということで、いまも日本政府はこの見解を維持しています。攻撃の権利はあるけどやらないと決めてきたわけです。
鳩山答弁には、後段として「防御上便宜であるというだけの場合に、安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らない」とあり、ここが非常に重要です。
つまり、守るためには敵基地をやっつける方が簡単だからと攻撃してしまうのはダメだと、安易な武力行使を戒めています。
去年、自民党の国防族の議員が集まり、岸田首相に提言したなかに、「反撃能力の保有」があり、その対象範囲は「指揮統制機能への攻撃も含む」とあります。
「指揮統制機能」とは命令を出す所です。日本で言えば、首相官邸や防衛省で、中国だとしたら北京、北朝鮮なら平壌を攻撃することになります。たくさんの基地を叩くより、命令を出すところ一箇所を叩いたほうが簡単です。鳩山答弁は、「簡単だからと安易に攻撃しない」でしたが、今回は、それを可能にしようとしているわけです。
去年の秋に政府原案をもとにして、自民党と公明党の与党協議があり、攻撃対象はどこにするかが話し合われましたが、決まりませんでした。結果的に3文書には攻撃対象が敵基地だけなのか、指揮統制機能も含むのかは書かれていません。
1月から始まった通常国会で、野党が質問しても、「相手国に手の内を明かすことになる」と言って政府は明らかにしていません。
結局、国会審議を通じても、「敵基地攻撃能力の保有」が、どこに向けられているのかは、はっきりしていないと言えます。

■日米の役割分担の変更

半田
では、いままでなぜ敵基地攻撃をやらなかったか。他に手段があったからです。日米安保条約によって、アメリカが日本の防衛義務を負うので、攻撃はアメリカに任せ、日本は防衛に徹するという日米の役割分担があり、日本は敵基地攻撃能力を持つ必要がないし、持たなかった。
ところが今回の安保3文書のうち、「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」には、「日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする」とあります。
文章として矛盾しています。「役割分担は変更ない」と言いながら、「自衛隊も敵基地攻撃をやる」、これまでアメリカがやることになっていた活動まで自衛隊がやると言っているわけで、この文章は破綻していると言わざるを得ない。
今までも、「敵基地攻撃能力は持っているけどやらない」として、「どういうタイミングだったら攻撃できるか」という議論はありました。
1999年に野呂田防衛庁長官が「侵略国が我が国に対して武力攻撃に着手したとき」だと言いました。このときに初めて、「着手した場合であればいい」と言いました。着手する前に攻撃すると、国際法上は許されない先制攻撃になるので、「ミサイルが飛んでくる前であっても着手が確認できればいい」と言ったわけです。
より具体的に答弁しているのは2003年の石破防衛庁長官で、「東京を火の海にするぞと言って、ミサイルを屹立させ、燃料を注入し始め、不可逆的になった場合は一種の着手と認定し、敵基地攻撃ができる」との見解を示しています。
しかし、去年の「防衛白書」を読むと、「北朝鮮は移動式発射機や潜水艦を利用するので、『発射の兆候を事前に把握するのが困難』」とあります。つまり着手の見極めは難しい。
去年秋の与党協議の中では、公明党側から「何をもって着手としますか」と問いかけたところ、自民党は「手の内を明らかにするので、ここでは言わないことにしましょう」となり、結局3文書には書き込まれなかった。
この結果、どうなっているか。
今回の3文書では、アメリカ軍は「矛」、自衛隊は「盾」という従来の役割分担を変更し、自衛隊が「矛」も「盾」も持つことになりましたが、その理由がよく分からない。
アメリカの国防費は日本の5兆4000億円をはるかに上回る114兆円。アメリカがこれだけ軍事にお金をかけているのに、なぜ日本がアメリカを補完しなければいけないのか。その説明がありません。
敵基地攻撃対象に「指揮統制機能等」を含むのか含まないのか、政府は何をもって日本への攻撃の着手をするのか、このあたりも曖昧になったままです。国会審議を通じても、我々は理解できていません。

■すべては、「安倍談話」に始まる

猿田
なぜ敵基地攻撃能力が必要なのか、いまだ納得がいかないというところです。急にそんな話が出てきて、しかも国会の審議もなしに閣議決定に至ったのは理由があるのでしょうか。

半田
安倍晋三さんは、2020年10月に持病の悪化を理由に総理を辞任しましたが、あのときに「安倍談話」を残しています。
そのなかに、「配備停止したイージス・アショアの代替として、弾道ミサイル等の脅威に対し迎撃能力の確保が必要」とありました。この年の6月に秋田市と山口県萩市に配備を予定していたイージス・アショアが、第1段ロケットを安全に落とせない、発射に必要なブースター(200キロくらいの鉄の塊)が住民の頭の上に落ちることが分かり、配備が停止になりました。安倍さんは、代替措置が必要だと提言し、次の菅(義偉)首相が、20年12月の閣議決定で、「イージス・システム搭載艦の建造」を決定しました。
安倍さんはもうひとつ、「迎撃だけでは足りない。防止力強化のために、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討」するよう求めました。
去年の7月の参議院選挙での自民党の公約の中にも「防衛費をGDPの2%を目指す」「反撃能力を保有する」とあるので、安倍談話を受けて書かれたように見えますが、実はそうではない。
自民党の国防族は、毎回「防衛大綱」が改訂される前に、政府へ提言しており、2013年には「わが国独自の攻撃能力(策源地攻撃能力)の保有」、2018年には「『反撃』を重視した『敵基地反撃能力』の保有」、2022年には「『反撃能力』の対象対象は指揮統制機能等を含む」と提言しているんです。
第2次安倍政権が誕生してからの自民党は、安倍首相の意向を受けて「敵地攻撃能力を持ってください」と政府に提言し続けてきました。
それが、なぜ去年になって実現したかというと、やはりロシアのウクライナ侵攻が大きいと思います。2月24日にロシアが侵攻し、4月・5月に各新聞社の世論調査が行なわれると、「防衛力強化に賛成」「敵基地攻撃能力を持つことに賛成」が7割を超えたんです。
今までこんなことはなかった。つまり、世論の後押しを受けて、「いよいよ機が熟した」ということで、ここまで来た。

■敵基地攻撃能力を持つために打たれた布石

ただ、「敵基地攻撃能力を持つ」ことに、これまで布石が打たれ続けてきたことにも着目しなければいけません。
2018年の防衛計画の大綱・中期防衛整備計画の改定のとき、「スタンド・オフ防衛能力の保有」が打ち出されました。「相手のミサイルなどが届かない安全なところから、こちらが攻撃できる」ことです。長射程のミサイルを持つとか、護衛艦いずも型を空母化して敵の基地の前まで戦闘機を持って行くことなどを指します。
これを2018年に決め、さまざまなミサイルの開発を進め、購入を始めていました。
そして2020年12月、菅首相は「イージス・システム搭載艦建造」を閣議決定し、同じ日に、「12式地対艦誘導弾」の能力向上も閣議決定しています。これは陸上自衛隊が持っている短射程のミサイルです。日本が戦争に巻き込まれたら必ず軍艦がやってくるので、それを日本の沿岸から撃つ短射程のミサイルでしたが、これを1000キロ以上飛ばせるものにすると閣議決定しました。
本州や九州などから朝鮮半島や中国に届くようになるので、「敵地攻撃能力の保有が狙いではないか」と記者会見の場で記者団が質問したところ、当時の加藤勝信官房長官は「自衛隊の安全を確保しつつ、相手の脅威圏の外から対処を行なう、我が国のスタンド・オフ防衛能力を強化するためのものであり、いわゆる敵基地攻撃を目的としたものではない」と全面的に否定をしています。
ところが、去年の3文書改定の1か月ほど前の11月27日、兼原信克・元国家安全保障局次長の「将来は反撃能力(敵基地攻撃能)力にしたいとの思いだった」という発言が東京新聞に載っています。
2018年の時点から、スタンド・オフ防衛能力の保有は、自衛隊員の安全確保が目的ではなかった。将来の敵基地攻撃能力の保有を見越して、既成事実化を進めた。つまり、国民を騙していたことになります。

■敵基地攻撃能力を持って、日本は本当に安全になるのか

猿田
そのように軍事力を高めて、敵基地攻撃能力を持つとして、日本は本当に安全になるんでしょうか。どうも、そうなる気がしないんです。

半田
「安全にならない」と言わざるを得ないです。
日本は専守防衛でやってきましたから、自衛隊は攻めてくる敵を跳ね返す能力は、かなり高いと思います。ですが、そもそも「敵の基地」がどこにあるのかが分からない。アメリカ軍の力を借りる他ありません。アメリカ軍はたくさんの偵察衛星を打ち上げているし、レーダーなどのセンサー類もたくさんあります。ヒューミント(HUMAN INTELLIGENCEを略してHUMINT)と呼ばれるスパイ活動も非常に盛んです。
そういうアメリカの情報がないと、自衛隊はどんなにミサイルを買っても、打つ場所さえ分からない。結局は、敵基地攻撃はアメリカと一体化しないとできない。
「国家防衛戦略」にも、「我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」とあります。
アメリカが考えているのは、アメリカが自国を守る、あるいは外国に行ったアメリカ軍を守ることです。I A M D構想(Integrated Air and Missile Defense)という、「陸海空、宇宙のあらゆる兵器を統合して敵のミサイルを破壊する計画」があり、今回日本が決めた敵基地攻撃をやることも、そこには入っています。
岸田首相は国会で、「I A M D構想には加わらない」と言っていますが、それは不可能なんです。ミサイルが飛んで来るときは、秒単位で判断を求められます。そんなときに電話をかけて、「お宅、危ないみたいだよ」と言われても対処のしようがないわけですから、日米のシステムを連携するしかなく、アメリカの指示通りに自衛隊が米国製のトマホークなどで敵地攻撃をする以外、ないわけです。

■日本のトマホークは400発、中国は2200発

半田
では、仮に中国の基地へ打たなければならないとなった場合、どうなるか。日本はトマホークを400発買うと発表していますので、400発あると仮定します。中国には、日本に届くミサイルは2200発あります。在日米軍はどうか。実はゼロなんです。冷戦時代のソ連とアメリカの間で中距離核戦力全廃条約を結んだため、射程が500キロから5500キロまでの地上発射型のミサイルは1発もないんです。アメリカは頼れないんです。
もちろん地上以外にも、船から打つとか、航空機から打つものはあります。しかし、すぐに引っ張り出して打てる中国のミサイルは2200発もあるのに、日本は400発しかないので、勝負になりません。
万一、北朝鮮に打たなければならなくなったらどうなるか。去年の9月から10月までに北朝鮮は何度もミサイルの試射を行なっています。変速軌道のミサイルで、これはアメリカのミサイル防衛システムでは落とせない。普通のミサイル防衛システムは、放物線を描いて綺麗に落ちてくる左右対称のミサイルしか打てず、変速軌道、妙な飛び方をするものにはまったく無力です。
そうすると、アメリカの情報をもとにして敵基地攻撃をして、一撃できたとしても、倍返しでは済まない結果を呼び込むことになります。
岸田首相はシミュレーションを行なったと説明していますが、敵基地攻撃能力の保有が日本の安全を保障する結果になったのかを明らかにする必要があるのに、国会で野党の質問に対して、まったく回答していません。
結局は、敵基地攻撃能力を持っても、日本は安全にはならないということです。

■敵基地攻撃とは、先制攻撃

猿田
昨日まで韓国にいました。韓国の人たちは、「日本が韓国に何も連絡もせずにいきなり北朝鮮を攻撃したら恐ろしい」「朝鮮半島が火の海になる」「そんなことを勝手にやられたらたまらない」と言っていました。とても適切だと思います。日本のせいで、韓国だけでなく、中国やアメリカも巻き込み、ひどい結果になるわけです。
日本の軍拡の流れは今に始まったわけではなく、2015年、安倍政権で安保法制が決まり、集団的自衛権の行使ができるようになり、今回、敵基地攻撃能力が認められるようになる。すごい勢いで、軍拡が進んでいます。この状態は、どういう事態を生み出すとお考えですか。

半田
「敵基地攻撃能力の保有」とは先制攻撃をすることになります。今回の3文書に、「この政府見解(1956年の鳩山答弁)は、2015年の平和安全法制に際して示された武力の行使の3要件のもとで行なわれる自衛の措置にもそのまま当てはまるものであり、今般保有することとする能力(敵基地攻撃能力)は、この考え方のもとで、上記3要件を満たす場合に行使しうるものである」とあります。官僚が書いた文章なので非常に分かりにくいのですが、つまり、武力行使の3要件に合致すれば、鳩山さんが示した敵基地攻撃はできるという意味です。
武力行使の3要件とは何か。まず、
「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」で、これは日本への侵攻で、従来から認められています。安倍政権で付け加えられたのが、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」で、これを「存立危機事態」と称し、そう認定されれば自衛隊が集団的自衛権を行使し、密接な関係にある他国を守るために外国で戦争ができることになりました。
第2が、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」、第3が「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」です。

■アメリカの力が弱まることは、日本の存立危機事態

半田
ここにある「密接な関係にある他国」がどこかについて、当時の安倍首相は「アメリカだけと限らない」と言っていますが、少なくとも、アメリカが含まれるわけです。
しかし、アメリカは歴史上、外国から侵略を受けたことはありません。世界一の軍事大国に戦争を挑むような国は、かつての日本以外ないんです。2001年の同時多発テロは、テロであり国による戦争ではありませんから。
アメリカが武力侵略を受けることはまずないとなると、日本がアメリカと共に戦うこともないわけですが、2015年に安倍首相はこう言っています。
「たとえば、ミサイル警戒にあたっているアメリカの船が攻撃される明白な危険という段階で、これは存立危機事態という認定をすることができる」。
ミサイル警戒は、日本の近くということもあり得るので、これは日本防衛に関連したことなのかなと思っていたんです。ところがそうではない。
2017年、安保法制施行から1年以上が過ぎてから、国会で野党議員が「グァム島が攻撃されたら存立危機事態か」と質問しました。グァム島はアメリカの50州の外にある準州ですが、空軍基地や海軍基地があります。このグァムが攻撃された場合について、小野寺防衛大臣は「アメリカの抑止力、打撃力の欠如は、日本の存立危機に当たる可能性がないとは言えない」と答弁しました。
つまり、「アメリカ軍が弱まるだけでも、日本の存立危機事態に当たるかもしれない」と言ったわけで、アメリカ本土がやられたときだけでなく、海外に展開しているアメリカ軍がやられただけでも、日本の存立危機事態だと認定すれば、アメリカ軍を守るために自衛隊が出動できる。
アメリカ軍がやられているだけで、日本は攻撃されてない。でも、それが存立危機事態だと言う。だから、日本は攻撃されていないにもかかわらず、他国を攻撃することができるというわけです。それこそが先制攻撃です。
アメリカと戦っている国は、日本に対しては何もしてないのに、日本から攻撃されるかもしれない。そうなったら「あなたの国へミサイルを打っていないのに、なぜあなたは私の国を攻撃してくるんですか、これは先制攻撃ですよ」と言われる。
これにより、国内法で認められるようになった集団的自衛権行使が、国際法では許されない先制攻撃に該当するという矛盾をはらむことになりました。
まとめますと、
《安全保障関連法(平和安全法制)により、存立危機事態になれば自衛隊が集団的自衛権を行使できることになった。
存立危機事態下で行なう敵基地攻撃は先制攻撃にほかならない。
政府は「専守防衛の堅持」「先制攻撃はしない」と言うが、どう考えても先制攻撃であり、専守防衛からの逸脱である。
存立危機事態における敵基地攻撃が先制攻撃にならないと断言する根拠は、国会でも何ら説明がなされていない。》
ということです。
今回の敵基地攻撃能力の保有で何が変わったかというと、戦争することが非常に簡単になってきたということです。

■安全保障政策の大転換をアメリカはどう見ている

半田
今回の安全保障政策の大転換は、岸田首相自身が大転換と言っていますが、アメリカ政府はどんな反応なのでしょうか。

猿田
安保3文書改定が12月16日に決まり、1か月後に岸田首相がワシントンへ行きバイデン大統領と共同声明を出しました。そのときの記事の見出しには、「歴史的な変化を歓迎する」「日米関係を現代化する」とありました。
「歓迎する」と言われて、岸田さんが、「よかった、よかった」と胸をなでおろしたわけはなく、安保3文書を書きはじめる前から、アメリカから「こうしてくれ」と言われ、「はい、考えます」とかあって作られたものだと思います。
首脳会談の前に、1月11日に、日米安全保障協議委員会、2プラス2がありました。日米の外務大臣と防衛大臣の協議で、いろんなことが具体的に決まりました。
「沖縄など南西諸島を含む地域における施設の共同使用の拡大」。これは、自衛隊の基地を米軍も、米軍の基地を自衛隊も使っていこうということ。
「共同演習の増加」。これまでもやってきたのをもっと増やしましょう。
「敵基地攻撃能力の効果的な運用へ協力を深化」は、日本が失敗しないよう、情報提供も含めて協力しましょう。
「空港や港湾の柔軟な使用が重要」ともあり、民間の空港や港も日米が有事の際には使える、ようにするということです。
その次に、日米首脳会談が行なわれ、日米協同で安保能力を強化することを確認しました。
バイデン大統領は、「日本の反撃能力及びその他の能力の開発、効果的な運用について協力を強化するよう閣僚に指示」したそうです。
さらに、「台湾海峡の平和と安定を維持することも重要性」も共同声明に書かれています。

半田
3文書の改定を国会で議論する前に、日米の外務大臣と防衛大臣が2プラス2で中身に踏み込み、日米の協力体制を具体化させ、その後に、アメリカの大統領と日本の首相が話し合い、この3文書の通りにやることが対米公約になりました。
国会の議論を抜きにした独裁的な手法によって、日米安全保障政策が大転換したように見えます。そうすると、アメリカの政策の中で、この日本の安全保障政策、特に3文書の改定とはどんなふうに位置づけられたと見ればいいでしょうか。

猿田
アメリカに行って先に公約してから、日本の政策を変えることは、珍しくなくなりました。安保法制の時に、安倍さんがアメリカに行って、米議会で「日本は強くなります」と約束してから、これが常套手段になってきています。
「朝まで生テレビ」に出たとき、自民党の議員に、「国会で批判が強くなり、国民からの批判も強くなったらどうするんですか」と言ったら、「いや、国民に反対されたら、変えます」と言っていましたが、だったら先にアメリカへ行って約束なんかしないでおけばいいのにと思いました。
一応、建前としては、国会で予算が通らなかったりすれば撤回する気持ちが、0.1%ぐらいはあるらしいですが、バイデンさんに大歓迎されていたら、無理でしょうね。
【注、このときはまだ国会で2023年度予算は成立していませんでした】

■防衛費増額をアメリカが関係する理由

猿田
今回、アメリカにお伺いを立てながら、軍事予算を増やす、敵基地攻撃能力を持つことが決められましたが、なぜアメリカが大歓迎するのか。
アメリカは世界最大の軍事強国ではあるんですが、中国にいろんな意味で追いつかれそうになっています。アメリカには「世界の警察」の名残がまだあるんですが、インド太平洋地域、あるいは中国の周辺地域の軍事力だけを見ると、台湾有事になると、中国に敵わない可能性もある。
相対的に力を落としているアメリカの、バイデンさんの外交政策はひとえに同盟重視なんです。アメリカの力が足りなくなった部分を、同盟国に補ってもらって、アメリカの覇権的地位を維持していく政策です。
2022年10月にアメリカも「国家安全保障戦略」という文書を出していますが、そこにも「同盟重視」とあります。その概念を「統合抑止」とし、それは「同盟国に軍事力強化を促し、自国(アメリカ)の抑止に組み込む」とあります。
これが10月に出て、12月に日本が安保3文書改訂で、これにストレートに「やります」と応じた形になります。日本の3文書のトップはアメリカと同じ「国家安全保障戦略」です。
その次の日本の「国家防衛戦略」には、「(日米)それぞれの役割、任務、能力に関する議論をより深化をさせて、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化」とあります。ここまでアメリカと同じ文言を使わなくてもいいのにと思うくらい、そのままです。
実態は「アメリカの抑止力に日本を差し出して、アメリカを守ります」なんですが、そうは書けないので、そのことによって日本も安全になるということになっています。

中編
防衛費倍増で何を買うのか、南西諸島はどうなっているのか

■「7本の矢」で防衛費増額

猿田
私たちの生活に関係してくるものとして、増税があります。
なぜ、防衛費を倍増しないとならないのでしょうか。

半田
政府は安保3文書の中で、「7本の矢」を示しています。
① スタンド・オフ防衛能力(長射程のミサイルを持つ)、
② 総合ミサイル防空能力(ミサイルを抑止するための兵器を持つ)、
③ 無人アセット防衛能力(無人兵器を買う)、
つまり、兵器をたくさん買うということです。
それだけでなく、
④ 領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開機能、⑦持続性・強靭性とあり、作戦能力を高めるお金が必要と言っています。
2022年度の防衛予算が、5兆4005億円。23度の防衛予算はこの3文書改定を受けて決められたもので、6兆8219億円ですから、1兆4000億円以上も高くなります。
当初予算で1兆4000億円も増えているのは防衛費以外にありません。防衛費偏重型になっています。ただ、防衛費は、実は11年連続して増えています。その前の10年は減っていました。
ただ、今年からはものすごい勢いで増えます。このペースで5年間防衛費を増やしていけば、確かに5年後にはGDPの2%になります。
中身として、どこにお金をかけるのか。特に敵地攻撃に使えるような兵器を防衛省がリストアップしています。
スタンド・オフ・ミサイル、12式地対艦誘導弾能力向上型の開発に338億円、量産に939億円――先ほど説明した菅(義偉)内閣で長射程化を決めた陸上自衛隊のミサイルです。
島嶼防衛用高速滑空弾は、離島などが奪われた場合にその取り返すために打つというもので、今までは400キロ程度の短射程と言ってたのが、いつの間にか1000キロ以上と説明を変えています。これの研究に158億円、開発に2003億円。
極超音速誘導弾とは、打ち落とされないような素早い速度で飛んでくるミサイルで、これの研究に585億円。
島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究に342億円。
これらを開発し、量産するのにお金が必要だと言っています。みな国産です。
次に、JSMの取得に347億円。これはノルウェー製のミサイルで、航空自衛隊のF35Aに搭載する。
JASSMの取得に127億円。これはF15能力向上機に搭載するアメリカのミサイル。
トマホーク400発を2113億円で買う。

■従来の政府見解との整合性がとれていない

猿田
こういうたくさんの武器、長射程のものもたくさん買うのは、今までの政府の説明と整合性が取れるんですか。

半田
きわどいです。というか、整合性は取れていないと思います。
1988年4月に瓦防衛庁長官が国会で「政府が従来から申し上げているとおり、憲法第9条第2項で我が国が保持することが禁じられている戦力とは、自衛のための必要最小限度の実力を超えるものを指す」と言っています。具体的には、「ICBM大陸間弾道ミサイル、長距離核戦略爆撃機、攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されず、このことは累次申し上げてきているととおりであります」と答弁しています。
いま、自衛隊が買い始め、開発しようとている兵器は、禁じられていた戦力にあてはまります。
先ほど説明した島嶼防衛用高速滑空弾は、離島が取られたらそこへ打つ射程400キロのミサイルですが、実は今2000キロを超えることになりました。そうすると南西諸島から打てば、中国の沿岸部にも届きます。ということは、大陸間弾道ミサイルと一緒です。
大陸間弾道ミサイルといっても、必ずしも核とは限らない。今ロシアがウクライナに対して打っているなかには、弾道ミサイルがたくさん含まれますが、核は打っていません。
中国は核保有国ですが、ロシアやアメリカと比べて一桁少なく、350発しか持ってない
日本に届くミサイルが2200発ありますが、ほとんどは通常弾頭ミサイルです。日本も、非核三原則があり、核兵器を持っていませんから、通常兵器としてミサイルを使うつもりとなり、大陸間弾道ミサイルに限りなく近くなります。
また、戦闘機から発射するJSMとかJASSMは、機能としては長距離戦略爆撃機に近い。
また、護衛艦いずもには、現在、ヘリコプターが載っています。何に使うのかというと、日本は四方を海に囲まれてるので、戦争は必ず海の外からやってくる。そのときにやってくる軍艦のうちで一番怖いのが潜水艦です。その潜水艦をいち早く発見して撃退するためのヘリコプターです。
この護衛艦いずもを、2018年の閣議決定で空母化すると決めました。戦闘機を載せることにした。すると、その役割はまるで変わってしまう。先の大戦で、世界で最初に空母を使ったのが日本で、赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴の6隻の空母に350機の航空機を乗せて太平洋に出て、発艦させて、真珠湾を攻撃し、航空機はまた空母に戻って日本に安全に帰ってきました。
空母の役割は、航空機だけでは行けない遠くまで運び、そこから攻撃をする。まさに攻撃的兵器です。いずも型に戦闘機を乗せてしまったら、いままで政府が「持てない」と言っていた攻撃型空母になります。

■アメリカから兵器を買い、日本の防衛産業にもまわす

猿田
イケイケどんどんどんどん防衛費が上がっていく。何に使うのかという気がします。
そもそも、防衛費は足りなかったんですか。足りないとしたら、どこに原因があって、だからこそ、どう増やすのか。そのあたりを教えてください。

半田
いままでの防衛費の中で、日本政府がアメリカ政府から武器を買った契約額の推移を見ますと、民主党政権の2011年までは、だいたい600億から400億円でしかなかったんですが、第2次安倍政権になってぐっと増え、2012年に1365億円、15年には4705億円、19年には7013億円となり、安倍さんが辞めた20年でも4713億円です。
アメリカ製兵器を買うために、これだけ使ってきた。
第2次安倍政権の前までは自衛隊の兵器は、陸海空自衛隊の方から、「こういう兵器が必要です」と求めて予算化される手順でしたが、安倍政権になると、政府の方から、「この兵器をアメリカと契約するからこれで戦争をしろ」という「お下げ渡し方式」になったんです。
このように、アメリカ製兵器をたくさん買い続け、アメリカへの支払いを優先させたことで、国内の防衛産業に対する武器の支払いが滞り始めた。防衛省は特別措置法を作って、今まで5年の分割払いだったのを、倍の10年に伸ばしたんです。
そうすると兵器メーカーはお金がもらえない。もらえないだけでなく、研究開発費も防衛省からもらえないとなり、100社ほどが防衛部門から手を引いています。日本の防衛産業が痛めつけられる事態になってしまった。

防衛費が倍増することになりますが、アメリカからのFMS(Foreign Military Sales、対外有償軍事援助)輸入額は、安倍さんが「爆買い」した2019年の7013億円に対し、来年度は1兆4768億円と倍になっています。この中にトマホークなどが入っています。
防衛費を2倍にすることで、アメリカからの兵器の爆買いを続けられ、同時に国内の防衛産業にもまわせるようになるわけです。一挙両得となるわけです。
大問題なのは、無駄がないかとのチェックがなされているか。

■旧式のものを買わされる

半田
グローバルホークという、アメリカのノースロップ・グラマン社が製造する高高度滞空型無人機を買います。アメリカ政府独特のFMSという商売で契約しており、値上げができるんです。3機を510億円で買ったんですが、値上げされて629億円で買うことになりました。119億円も一気に高くなった。
一応、防衛省の決まりで、25%以上になったら契約破棄できることになっていましたが、119億円の値上げは23%なので、破棄できません。しかも、9年前に3機買うと契約したのに、まだ2機しか来ません。その2機が去年、青森県の三沢基地に来た途端、アメリカ軍は自衛隊が買ったブロック30という機体は「旧式で使えないので全部捨てる」と決めた。そして、アメリカはもっと新しいブロック40を使う。
アメリカはポンコツのガラクタを日本に押し付けて、自分たちはいいものを使っています。
こういうおかしなことがあるわけです。
イージス・アショアも政治案件です。安倍首相がトランプ大統領にアメリカ製兵器を爆買いしろと言われて、買うことを決めました。しかし2020年6月に、河野防衛大臣が配備停止を決定しました。契約を破棄するかと思ったら、すでに196億円を払っていた。これが戻ってくるどころか、破棄すると数千億円の違約金が取られるらしい。責任問題になる。「いったい、誰が買うと言ったんだっけ」「安倍さんです」となるので、これはまずい、どうにかしないとなった。誰かが「陸上がダメなら、海上に移そう」と思いつき、船に載せることになり、菅内閣で、イージス・システム搭載艦にすることになりました。
しかし、これは地上版レーダーです。アメリカも「船に載せていいのか」と何度も言っている。船に載せるなら、それなりに小さく作ったのに、地上に置くものだから大きい。しかし、船に載せると決めてしまったので、来年度予算でイージス・システム搭載艦、2208億円となった。イージス・アショアであれば1200億円でしたから、1隻1000億円も高くなった。2隻なので、2000億円も高くなってしまった。
しかも大きなレーダーを載せるので、船もでかくなってしまった。結局、小型化しなければとなり、また見直しが始まっています。

■イージス・システムは政治の迷走

半田
今回の3文書改定でいきなりGDP2%が出てきたことに、自衛艦隊司令官だった香田洋二さんが、朝日新聞のインタビューに答えて、こう言っています。
「身の丈を超えていると思えてなりません。子どもの思いつきかと疑うほど、あれもこれもとなっています。」
「陸上から海上へ、大型艦を小型化へと二転三転するイージス・システムは、まさに政治的な迷走の象徴です。」
「今回2%のかけ声が先行し、政治からもあれもこれもやるべきだという声も強かったのではないでしょうか。それに悪乗りしている防衛省・自衛隊の姿が見えるのです。」
もっともです。
イージス・システム搭載艦は、全長210メートル、幅40メートルです。自衛隊の船は普通20メートル以下なんです。結局、幅が太い太った船になってしまい、あまりにも鈍重すぎるんで、見直しをしていますが、本当に完成するのかっていうところまで来ています。
また、国産の兵器を3種類開発することになっていて、2026年度にそのうち2種類が届くと言っていますが、おそらく間に合わないので、トマホークを買うと言っているわけです。
ふざけるのもいい加減にしなさいという話です。
精査をして積み上げ方式でやっていないことが、これだけでも分かります。予算は、積み上げなければいけない。大枠を与えられたので、あれもこれもと政治家も防衛省も悪乗りをして、皆さんのこの懐を痛めそうになっています。

■防衛費倍増の財源は?

猿田
自民党・安倍派の中でも、防衛費が足りない、増税するのかしないのかみたいな研究をしてますけれど、政府は財源をどう考えているんでしょう。

半田
2027年度で4兆円足りなくなると言っています。1兆円だけはどうしても税制措置、つまり増税でやらなければならないので、東日本大震災の復興財源に充てている復興特別所得税を流用することが、すでに決まっています。
残りの3兆円が本当に出るかというと、疑っています。歳出改革をすると言っていますが、無駄遣いをなくすくらいで、出るわけないです。
決算剰余金の活用と言っていますが、これは国債の利払いと補正予算の原資になっているお金なので、使えないでしょう。国有地の売却とも言っていますが、今あまっている国有地は4000億円分しかない。
3兆円は出ないんじゃないか。ということは、増税か、国債発行のどちらか、あるいは両方です。増税の場合、法人税を上げると言っていますが、所得が2400万円に満たない中小企業からは取らないと言っている。そうすると、経団連に入っているような大企業から取ることになりますが、自民党は国民政治協会を通して経団連から政治献金を受けているのに増税できるのか。たばこ税を1本3円上げても、2000億円しか出ない。
そうすると所得税を上げるしかないけど、これだけの物価高のなかでは難しいでしょうから、おそらく消費税を上げるでしょう。2パーセント上げると、4兆円になると言われています。
もうひとつ禁じ手として、国債があります。過去にこれを発行して戦争を続けた反省から、「軍事費の財源として公債を発行することはしない」と1966年に当時の福田赳夫大蔵大臣が答弁していましたが、2023年度予算には建設国債4323億円が計上されて、自衛隊の船とか潜水艦の建造費に充てられます。
こういったデタラメがどんどん出てくるようになってしまいました。

■南西シフトとは

猿田
政府は戦争を回避するためにこういうことをしていると説明し、私たちも戦争回避したい。ですが、やり方が極端に違います。
台湾有事が叫ばれながら今の政策が取られています。自衛隊が台湾の方、つまり沖縄を含む南西諸島にシフトしていますが、現状はどうなっているのか。

半田
南西諸島の中で実戦部隊があったのは沖縄本島だけだったんですが、それでは足りないと、たくさんの離島にミサイル部隊を置くことになり、すでに奄美大島と宮古島に地対空地対艦ミサイル部隊ができ、石垣島にミサイルが運び込まれ、4月2日に開所式が行なわれるそうです。南西諸島のミサイル網ができます。これを南西シフトと言います。
現在、離島に配備されるミサイルは12式地対艦誘導弾です。これを能力向上型に置き換えるのはほぼ確実ですから、離島から中国が狙えるようになり、島嶼防衛用高速滑空弾も離島に置かれる。
つまり、自衛隊の敵基地攻撃能力は中国へ向けたミサイル配備によって実現することになります。

猿田
日本の自衛隊はこういった形で変化していくと思います。
実際に自衛隊が出るということは、日本の有事ということですが、台湾有事でなぜ自衛隊が出るんでしょう。日本には台湾を守る義務はないのに、なぜそれが日本有事になるんでしょう。

半田
確かに、中国が台湾を武力で統一するときに日本が見ているだけなら、日本は戦争に巻き込まれません。中国は台湾を内政問題だと言ってるので、台湾を統一するときに外国である日本を攻撃し、戦争に引きずり込む理由はない。しかしアメリカが参戦すると、まったく違ってきます。
在日米軍基地の7割が集中する沖縄本島からアメリカ軍が出撃すれば、その基地が狙われて日本有事になるし、アメリカ軍がやられただけ、船や飛行機がやられただけでも、存立危機事態だと言えば、米軍を助けるために自衛隊が戦争することができます。
アメリカが介入すると、台湾有事は日本有事になる。

■アメリカはなぜ台湾を守るのか

猿田
本当に台湾有事となったとき、米軍は本当に防衛をするんでしょうか。ウクライナを見ると、アメリカは台湾を守りに行かないんじゃないかと思うんですが。

半田
バイデン大統領は、去年の9月のCBSテレビのインタビューで、「台湾を守る」と言っているし、ロシアが侵攻したのにアメリカが派兵していないウクライナと違って、中国が台湾に侵攻した場合、台湾を守るのかと問われても、「イエス」と答えています。バイデン大統領が「台湾を守る」と言ったのは4回目です。
アメリカには台湾を守るための条約はありません。台湾関係法があり、武器は供与してきましたが、防衛する必要は全くないんです。
それなのになぜ守るのか。ひとつは、アメリカの安全保障上の理由からです。
冷戦時代の1950年にアチソン国務長官が、この内側には共産主義勢力を入れないと引いた線(アチソン・ライン)がありました。日本はそこに含まれますが、韓国と台湾を入れなかったので、朝鮮戦争が起きた。そこで、新アチソン・ラインとして、韓国と台湾を入れ、その内側を守るというのが、いまの今のアメリカの防衛のあり方なんです。
特にアメリカが警戒しているのが潜水艦の動きです。中国の核兵器を積んだ原子力潜水艦が出るたびに、南シナ海に潜ませていたアメリカ軍の潜水艦が追尾しています。それだけでは危ないので、南西諸島の海底に水中聴音機(Sound Surveillance System, SOSUS)を置いて、何時何分に中国の潜水艦がその上を通ったかを記録しています。ところが、台湾が中国に取られると、太平洋に面しているので、追尾も記録もできなくなる。
もうひとつが経済的な理由です。台湾にはTSMC(台湾積体電路製造)という世界一の半導体メーカーがあります。世界シェアの60パーセント以上を占め、資産価値は約60兆円と言われています。もし、ここが中国に取られ、半導体がアメリカに入ってこなくなると、主力産業である自動車や兵器、IT関連機器が全部ダメになる。
アメリカが台湾を守るのは、自国の安全保障上の理由と、自国の産業維持からです。

■台湾有事はなぜ起きる

半田
アメリカは2027年までに戦争が起きると見ています。
インド太平洋軍のデービットソン司令官が、2021年3月に上院軍事委員会で「この地域における我々の通常兵器による抑止力は低下している。中国が過去20年で軍事力を大幅に増強させたからだ」と発言し、「台湾への脅威は、今後6年以内に明白になるだろう」とも言っています。
これは軍が予算を欲しいからだろうと言われていましたが、今年の2月2日にCIAのバーンズ長官が、「習近平国家主席は2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」と言っています。
2027年には中国軍の現代化が終わり、アメリカを寄せ付けない軍事力となるわけです。
もうひとつは、習近平国家主席が4期目をやろうとすると、いまの任期が2027年なので、その時に大きな成功を示さければならない。そこで台湾侵攻をするのではないかと、アメリカは見ています。日本は当然、アメリカのこの考えを受け、3文書にも南西諸島のことは十分に書き込まれています。
たとえば、2月末から3月初めにかけて、海兵隊と自衛隊が南西諸島で「アイアン・フィスト」(鉄の拳)という共同訓練をし、去年の11月には与那国島に米海兵隊が派遣され、陸上自衛隊の機動戦闘車を初めて空輸され、連絡調整しています。
日米の制服組の間では台湾有事は起きるという前提で、訓練が始まっています。
「備え」は始まっています。

■南西諸島で何が起きている

猿田
その「備え」をしすぎて危機を呼び込んでいると感じます。実際に、その呼び込んだ戦争が起きたときに、備えをしているから南西諸島の人々は命も助かるということですか。

半田
今年の1月には、政府の呼びかけに応じて、那覇市でミサイルが上空を通過する前提の避難訓練が行なわれ、去年の11月には与那国でも行なわれています。3月には政府主催で沖縄県の離島住民の避難方法を検証する頭上訓練も実施されました。
戦争は不可避とみて、住民避難の訓練も行なっています。だけど、絶対に守れません。このままでいったら1人の犠牲者も出さないということはない。
たとえば宮古島の場合、5万5000人の市民を避難させるのに、バス1088台、航空機363機、船舶109隻が必要とされますが、戦争になったとき、こんなにたくさんの輸送手段を集められるわけがない。
宮古島が危ないときは、石垣だって沖縄本島だって危ない。どこへ逃げるんですかという話で、実効性を確保するのは困難を極めます。離島間の調整を含めて、政府は住民保護を丸投げしています。3文書には「住民保護」という言葉がたくさん出てきますが、具体的には何も書いてない。もはやこれは、どうにもならない。戦争をしないこと以外に、方法はありません。
最後に、これだけは知ってほしいことは、
「平和は軍事力ではなく、命がけの外交によって初めて実現する」
ということです。
日本だけでダメだったら、お隣の韓国やASEANの国々にも呼びかけて、アメリカにも中国にも軽挙妄動は度絶対に避けてほしいと言わなければならない。そう思います。

後編
とにかく、戦争を回避せよ

■抑止論からの転換を

猿田
私たちは、半田さんからご説明いただいたような理由から、「戦争を回避せよ」という政策提言を出しました。
先日、韓国で文・前政権の外交顧問の方から、「そんなに戦争の準備ばかりしていたら、本当に戦争になってしまう」と言われました。いまある緊張をやわらげるための外交が、絶対に必要だし、それは軍事力を強くすると言っている人も同じだと思います。
【政策提言「戦争を回避せよ」はここで読めます。
https://www.nd-initiative.org/research/11342/】

1ページ目に、こうあります。
《軍事力による抑止は、相手の対抗策を招き、無限の軍拡競争をもたらすとともに、抑止が破たんすれば、増強した対抗手段によって、より破滅的結果をもたらすことになる。抑止の論理にのみ拘泥する発想からの転機が求められる。》
軍事力の強化をして戦争が起きないのであれば、そんな楽なことはありません。
でも、それをしたいのなら、中国ぐらい軍事力を増やさなければならない。しかし、経済力がいまや中国の4分の1ですから、できるわけがないんです。
戦争はちょっとした間違いから始まります。たとえば海が荒れたので中国の漁船が尖閣諸島にちょっと寄っただけなのに、自衛隊が、中国の解放軍が乗り込んだと思い込んで撃ってしまい、それで戦争が始まることもあるわけです。
提言にはこう書きました。

《戦争を確実に防ぐためには、「抑止」とともに、相手が「戦争してでも守るべき利益」を脅かさないことによって戦争の動機をなくす「安心供与」が不可欠である。》

中国には、台湾を統一したいという動機がありますが、台湾には独立したいと思っている人は、1割もいないんです。独立したら中国が攻めてくるのが分かっているので、独立なんかしたくない。
「台湾は独立せよ」と煽ってるのは、日本やアメリカなんです。でも日本も、1972年の日中共同宣言で、台湾は中国の一部であると中国が言っていることを尊重するとなっているわけです。
踏み越えてはいけないデッドラインがどこなのか、対話で見つけながら、相手が戦争をする動機をなくしていかなければならないんです。

《台湾有事にいかに対処するかは、戦争に巻き込まれるか、日米同盟を破綻させるかという究極の選択を迫る難題である。それゆえ、台湾有事を回避するために、今から、展望を持った外交展開しておかなければならない。》

日本が日本だけで、中国や北朝鮮と戦争になる理由はまったくありません。
中国との間には尖閣諸島の問題があるといいますが、あんなちっぽけな誰も住んでない島のために、中国だって日本だって、ウクライナみたいな戦争はしません。
北朝鮮とも戦争になる理由がないんです。まずそこを押さえていただきたい。
では、日本が戦争になるとしたら、どういうときか。半田さんのお話にあったように、アメリカを助けに行くとかアメリカ軍の手伝いをしようとして、米中対立の表れである台湾有事でアメリカ側について、何かやろうとする場合です。
なので台湾有事を起こさせなければ、アメリカにつくことさえしなければ、日本は戦争に巻き込まれることはない。
そうは言っても、そんなに簡単じゃないだろうと思われるでしょう。
そこで私が鍵になると思っているのは、「事前協議」です。

■台湾有事に巻き込まれないためのカギとなる「事前協議」

猿田
日本が台湾有事に巻き込まれるかどうかの最初の決断は、アメリカ軍を、日本の基地から台湾に向かって直接出撃をさせるかどうかの判断をする、その瞬間です。
日本の国土にはたくさんの米軍基地があり、台湾有事になり、アメリカが関わると決まると、そこから飛行機が飛び、船が出港します。それは、アメリカが勝手にやるんだろうと思うかもしれませんが、一応、事前協議が必要だということになっているんです。

昔の日本はリベラル整力が強く、55年体制では野党が強かったんです。それを理由にして、1960年に日米安保条約が改定されたとき、アメリカの好き勝手に基地を使われ戦争に巻き込まれたら困ると、事前協議制度を織り込ませたんです。
つまり、戦闘時に在日米軍基地から新たに直接出撃する場合には、アメリカは日本に対して事前協議をして、お伺いを立てなければならないとなったんです。
そこで、アメリカに「シミュレーションをしているけど、それは日本にある米軍基地を使うのが絶対条件でしょう。でも、事前協議で、もしかしたら日本は基地を使うことにノーと言うかもしれませんよ」と、今の段階で言っておくことが、大事だと思っています。
何人もの国会議員にこのことを質問してもらっています。アメリカはこの事前協議を気にしているので、国会で問題になるたびに日米協議が行なわれています。
これはアメリカに対する外交です。今から「台湾有事のときに自由に基地を使わせないかもしれないよ」という、曖昧戦略でも何でもいいので、言っておくことで、台湾に対してのアメリカのあまりにも強い思い込みを、やわらげることができるかもしれない。
中国に対しても「戦争に訴えてはいけない」と言わなければならないし、台湾にも「いま独立なんかしても、あなたにとって得にならない」と言わなければなりません。
それでも、「日本にある基地をアメリカに勝手に使わせない」と市民が声を上げれば、国会で取り上げ、新聞が取り上げるようになれば、大きな話題になります。
ぜひそういったことを吉祥寺の街からも広めていただけたらと思います。

■命がけの外交を

半田
これは究極の選択ですね。
たしかに、在日米軍基地から、米軍が作戦行動に出るときには日米で事前協議をすることになっていますが、ベトナム戦争のときも日本の基地から出撃して空爆をして帰ってきているんです。「出撃」したのではなく、「部隊の移動だ」とか、「飛び上がった後に命令が下りた」とか言って、一度も実際の事前協議は行なわれていません。日本も黙認していました。
だけど、前と同じように黙認していたとしとても、台湾有事の場合、戦争の現場が目と鼻の先だから、どうしたって日本の基地にミサイルが落ちてしまう。
だから、イエスかノーとはっきり言わないといけなくなるでしょう。
イエスと言って、米軍がそこから出撃したら日本の基地が狙われて日本有事になるし、ノーと言えば日米安保体制が破綻する。どうしたらいいんでしょう。

猿田
その場面を作らせたくないのは、日米同盟を壊したくない政府の役人です。
その場面を絶対に作らせないようにしなければいけないということに尽きる。
つまり、事前協議の場面まで来たら、戦争が始まるので、もうおしまいです。事前協議となる前の段階、今日から、そのことを言っておくのが大事です。

半田
アメリカはTSMCを誘致し、アリゾナ州に工場を作っていますが、アメリカ政府は5兆5000億円出しています。
アメリカ政府は、場合によってはTSMCを全部持っていきたいんだろうけれど、世界が見ているからそうもいかない。そうすると、台湾を何とか自分の側に引き寄せようとしていて、それが習近平さんを苛つかせている。
どうやってその間の、落としどころを見つけていくかですね。
安心供与、つまり、日本もアメリカも台湾の独立を推奨したりはしないし、「台湾に対し『軽挙妄動をやめなさい』と言うかもしれない」と、中国に言ったほうがいいわけでしょう。
中国に対しては、「あなたがもし武力で台湾を取りに来るならば、我々はアメリカに対して事前協議でイエスというかもしれませんよ」と脅せばいい。

猿田
両方に対する大きな武器になると思います。

半田
だから、これは命がけの外交です。場合によっては、嘘をつきながらでも、日本の最大の国益を考えて外交をしてほしいですね。

猿田
私は「バランス外交」が絶対に必要だと思っていて、その参考になるのが、東南アジアの国だと思っています。
東南アジアの国々は、日本よりもっと小さく、軍事力もなく、今まさに開発途上から発展していく過程です。戦争なんかされたら、とんでもないわけです。
「アメリカの庭」として使われて同盟国もたくさんある。しかし中国の投資を受けているし、中国との貿易額がかなりの割合になっています。
東南アジアからは、「Don’t make us choose」という声が上がっています。「どちらかを選ばさないで」という意味です。彼らはアメリカとも非常にしたたかに付き合うけれども、決して中国との関係も切らない。
小さい国がまとまって、こう発しているわけですが、日本だって本当は同じです。アメリカとも中国のどちらかひとつを選ぶなんてできない。
そう考えた上で、どういった外交政策をするのか。どんな外交政策をする政権、政治家を選挙で選ぶのか。それを考えていかなければなりません。

【東南アジア諸国の外交については、第8回で猿田さんが詳しく説明されているので、御覧ください】

~質疑応答編に続く~

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