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NEW!!【活動報告】第20回「少子化爆速中の日本、安心して子どもを産み育てることができるのか?」講演篇

第20回は「少子化爆速中の日本 安心して子どもを産み育てることができますか? ~政府の「異次元の少子化対策」を徹底検証!~」という長いタイトルで開催されました。
今回は講演という形式ではなく、青野慶久さん、羽生祥子さん、松下玲子さんの3人による鼎談形式で、さまざまな立場での経験や知見をもとにしたお話が展開されました。
最初に松下玲子さんから、「爆速中」は松下さんが考えたものだと説明がありました。「加速」なんてものではない、という思いからのネーミングです。
松下さんは司会も兼ねての登壇です。
まず、自己紹介から。

■日本は半導体よりも人材が不足している

羽生祥子 わたしは吉祥寺に住んでいます。高校生と中学生の子がおりまして、保育園から武蔵野市で育てています。今日は自転車で参りました。
日本経済新聞グループのなかで、20年弱、女性向けのメディアを創刊してきました(2013年に「日経DUAL」、2019年に「日経xwoman」)。最近は少子化、ダイバーシティ、女性活躍推進というような分野で本を書いています。
1年半、内閣府少子化対策大綱検討会で政策提言もしてきました。今日は行政の中でどういう話をしてきたかということと、メディアで働く子育て世代のなかで、どういう声が上がっていたかというお話ができればと思っています。
【羽生さんの詳しいプロフィールは、こちらにあります。https://habupro.com/profile】
松下玲子 羽生さんには、7月に武蔵野市の男女共同参画フォーラムで基調講演をしていただいたとき、初めてお会いしました。今日はちょっと緊張していらっしゃるようですね。
【会場、笑い】
羽生 今日はすごい緊張しています。3歳のピアノ発表会以来、44年ぶりの緊張です。「謎の緊張」です。これまでも講演はしてきましたが、多分、政治という場のど真ん中でお話しするのは初めてなんです。言ってもよくならないだろうなという思いが心にあるから、緊張しているんでしょう。
自転車をこぎながら、この「謎の緊張」を因数分解してきたんです。そういう、絶望感を今日は話したい。これを言って響くんだったら世話ないじゃないですか。でも良くならないだろうなと思ってしまっている。これが緊張の原因のひとつです。
松下 羽生さんの緊張を徐々にときながら、本音をいっぱい引き出していきたいと思っています。7月の武蔵野市主催のフォーラムでの羽生さんの言葉のなかで、わたしにいちばん響いたのが、「世の中、半導体不足と言われています。今、日本では大きな半導体工場の建設が急ピッチで進んでいます。でも皆さん、半導体よりも人材の方がもっと不足しているんです」という言葉でした。こうポーンとおっしゃったんです。
羽生 ちょっと興奮しながら言いましたね。
松下 そう。すごい熱量でおっしゃいました。わたしは、そうか、半導体よりも人材のほうが足りないのかと、腑に落ちました。そのあと、羽生さんといろいろお話をしたら、共通のお友だちもいて、同じ子育て世代だというので、今日の企画に賛同していただき講師としてお越しいただきました。

■上場企業の社長が育休を取れば、有名になれると言われて始めた
松下 青野慶久さんは、武蔵野政治塾には二度目のご登場です。前回は昨年12月10日の第4回「政治を変えたい経営者たち」で、選択的夫婦別姓などについてお話しいただきました。

青野慶久 1971年生まれの52歳になります。世代的には「昭和」ですね。実家が愛媛県のすごく山奥の方だったので古い考え方でしたし、普通の専業主婦家庭でしたので、「男が働き女は家」という家庭でした。子育てについて語るようになるとは、まったく思っていませんでしたので、不思議なものです。
普段何をやっているかといいますと、IT企業の社長をしています。田舎の育ちなんですけど、コンピュータが好きだったんです。26年前、1997年に、サイボウズという会社を創業しました。最初は愛媛県でアパートを借りて3人だけで始めたんですが、何とか生き残りまして、いまはざっくり1400人ぐらいの大きな会社となっております。そこの社長をして、日々、MicrosoftやGoogleと戦いながらソフトウェアを作って提供しています。
【サイボウズについては、こちらをご覧ください。https://cybozu.co.jp/】
「昭和」の考え方だったので、正直なところ、子育てに興味はないし、妻に全部任せようと思っていたんです。13年前の2010年に長男が生まれましたが、子育てをする気はまったくなかったんです。一応、上場企業の社長ですから。

■ブランディングで始めた育児
青野 文京区に住んでいるんですが、成澤区長が全国で初めて男性の区長が育児休暇を取って、それが全国ニュースになりました。それを知って「うちの区長、育休取ったすごい」とツイッターでつぶやいたんです。すると、成澤区長からダイレクトメッセージが来まして、会うことになりました。
区長から、「青野さん、育児休暇、取ってください。文京区の子育てのブランドにしたい」と言われましたが、「僕は育児休暇なんか、取る気ないですよ」と言ったら、「育児休暇を取ったら、全国のメディアが取材に来ますよ。サイボウズの名前が一躍有名になりますよ」と言うじゃないですか。
「マジか」と思いました。育児休暇取ったらおいしいわって。【会場から笑い】
羽生 青野さん、ブランディングで子育てしていたんですね。わたし、「青野さんはいい人です」ってみんなに紹介していたのに。
青野 基本は「昭和」で、お金にしか興味がないんですよ。それで区長からそこまで言われたので、ちょっとおいしそうだからやってみようと思って、育児休暇を取ったんですよ。
そしたら、本当に子育ては大変で、びっくりしました。僕としては、赤ちゃんはずっと寝ているから、寝ている間に働けばいいやと思っていたんです。ところが、とてもそんなことはできない。次のミルクの準備もしないといけないし、いつ泣き出して呼び起こされるか分からない。自分の睡眠時間を確保することすら、大変でした。これは普通の仕事よりも大変だということに気づきまして、ちょっと心を改めました。
いま僕は子どもが3人いるんですが、生まれるたびに育児休暇を取って、自分なりに頑張って子育てしている感じです。IT企業の経営者という側面もあるんですけど、今日は、ひとりの父親として、昭和な考えを何度かアップデートしようとしてる父親として、お話できればと思います。
松下 育児休暇を取った動機は、会社の名前を全国的に知らせようという宣伝効果を狙ったということで、ちょっと不純だったかもしれませんが、結果的には育児休暇を取ったことでの「学び」とか、変化があったんですね。
青野 自分の中では常に葛藤しています。仕事に集中したい自分と、そうは言っても、こういう時代に男性も子育てに参加しないといけないという、せめぎ合いがあります。
松下 そのあたりのことは、後ほどお話を伺いたいと思っています。「育児休暇」というと、名前に「休暇」とつくので、何となく、休んで楽して、のんびりしていると思われがちで、「その間に資格でも取ればいいんじゃないか」ということで、政府が「育児休暇中の女性が資格を取得して、アップデートできるようにします」とか言って、ちょっと炎上しましたよね。
青野 そんな余裕があるかって話です。まったく休暇じゃないです。休めないです。
羽生 育児休暇を取って「抱っこし放題」とも言ってましたけど、居酒屋の飲み放題とは違うって。

■子育ては想像力を超えることが起きる

松下 子育てって、やってみると、想像力を超えることが多いというのがわたしの実感です。
わたしも自己紹介をさせていただきます。本日の進行役の松下玲子です。武蔵野政治塾の運営委員を務めておりまして、今回の企画を発案し、皆様にお届けしたいなと思いました。わたし自身、15歳、中学校3年生の母親でもあります。
今から15年前、わたしは東京都議会議員でした。その1期目の3年目に出産をしました。都議会で、現職の議員が出産したのは初めてで、育児休暇どころか産休の制度もなく、「病欠の届けを出してくれ」と言われました。わたしは「出産は病気じゃない」と思いましたが、病気休暇を出さないと駄目だと言われ、心がちょっと震えました。「病欠」ということに、すごい葛藤がありました。
予定より1か月早く出産することになりました。ちょうど6月の第2回定例会の最中で、出産2日後が本会議でした。何となく行けそうな気がしたので、「行きます」と言ったら「絶対駄目です」と止められまして、行けませんでした。
わたし自身が、子育てと仕事の両立を体験し、保育園をはじめ、子育ての制度をもっともっと充実をさせたいと思うようになり、6年前に、「子ども子育て応援宣言のまち武蔵野」のスローガンを掲げて武蔵野市の市長選挙に立候補しました。
実はこのスローガンを掲げたときに、反対の声もいただきました。選挙中に演説をしていますと、その方は心配しておっしゃってくれたのですが、「子育て、子育てと言うの、やめてちょうだい。高齢者支援とだけ言っていればいいのよ。子育て支援と言ったら落ちると思う」と、お叱りやご助言をいただいたこともあります。
独身の女性の方からも、「わたしは独身です。子どももいません。だからあなたが子どもや子育てのことばかり言うと不愉快です」と怒られたこともあり、そのときはちょっとショックでした。
そういうお話を聞きながら、「でも、ひとりでお暮らしになるあなたの老後は、誰かが産んで育てた子どもが社会の一員になって、介護や年金の制度の支えになるんですよ。だからこそ、そうした子どものいらっしゃらない方にとっても、子育て支援はとっても大事なんです」と、できるだけ理解してもらえるように話した記憶があります。
6年経って、政府が「異次元少子化対策」という言葉でプランを発表しました。これは、昨年1年間に生まれた子どもが約77万人で、80万人を切ったことがショックだったからですね。そこで「異次元」となりました。その中身についてはまた後ほどお話したいと思います。

■赤ちゃんには日本語が通じない
青野 多分、「子育て」というと、若い世代の夫婦の話だと思われるでしょうが、意外とそうじゃなかったんです。
先ほど申しましたように、僕は基本「昭和」です。もう仕事に生きて仕事に死ぬのが理想です。ベッドの中までパソコンを持っていきます。まぶたが落ちるまで働くのが、僕の美学です。死ぬなら職場で死にたい。
そんな人間が、よこしまな動機から子育てをすることになりまして、本当に辛かったです。自分がやりたいわけじゃなかったからです。
子どもは、全然言うことを聞きません。当たり前ですけど、赤ちゃんには、日本語が通じない。それに比べたら、会社の仕事は、めっちゃ楽です。みんな日本語通じるし、普通に話をすれば、聞いてくれます。
でも子どもは、全然聞いてくれない。泣いている理由すら教えてくれない。そういう人と向き合っていかなければならない。しかも、この子は僕がちょっと失敗したら、死ぬリスクがある。これ、ものすごいプレッシャーですよ。この子の未来は自分が背負わなければいけない。仕事と比べて、はるかに大きなプレッシャーでした。
それで、始めてみると、やっぱりうまくいかない。たとえば、生後半年ぐらいになると、離乳食を食べさせるわけです。そろそろ、ミルクからご飯にしないといけない。その離乳食の作り方をがんばって調べて、作りました。ところが、食べない。口を開けてくれない。「ミルク持って来い」って感じです。
本当に辛くて。僕だったら、2秒で食べ終わるものが、30分かかるわけです。がんばって笑わして、口を開けた瞬間に入れて、「ああ、一口食った」。これを繰り返す。
本当に何をやっているんだろうと自問自答です。30分あったら、ひと仕事できるのに、コップ一杯の離乳食を食べさせることもできない。本当に辛い育児休業期間でした。

■子育てと経済が繋がってから、本気になった

青野 ところが、神様が降りてきたんです。
「青野くん、この子に離乳食を食べさせるのに30分かかったかもしれない。しかし、この子は、20年経ったら大人になるんやで」という神の声が聞こえてきたんです。
そうか、大人になるっていうことは、働きに出て、モノも買うようになる。そしたらこの子は、もしかしたらサイボウズのグループウェアを買ってくれるかもしれない。
そんな神の声が聞こえた瞬間、「この子は潜在顧客、未来の顧客か」と思い、その瞬間に、僕のなかで「子ども」の定義がまったく変わったわけです。
子どものいない社会になってしまったら、僕らの商品を買ってくれる人が減る――僕の中で、子育てと経済が繋がったんです。その瞬間に視野が広がりました。
いま、日本は少子化で働き手がいない、市場が縮小したと、経営者は皆、苦しんでいるわけです。これは子育てしにくい社会を作ってきたからです。
やっばり商売人たるもの、子育てを大事にしなければあかん、そう思いました。
子育てしてくれる人がいっぱいいて、その子が働き手になって、消費者になってくれて初めて、僕らは商売ができる。それは僕だけじゃなくて、従業員もみんなそう。パートナー企業もみんな。だから、とにかく子育てをしてる人をみんなで、組織を挙げて、応援しよう。みんなに子育てしてもらって、その上でようやく、僕たちは商売を気持ちよくできるーーそのように考え方が変わりました。
自分なりに、下手くそながらも葛藤しながら、とにかく子育て最優先で経営してます。
いま、サイボウズでは働き方を柔軟にできるようにしてました。たとえば、働く時間も自分で選べます。午後4時まで働くのでも全然OKです。育児休暇も、普通は1年ぐらいですが、社員に聞いたら、「1年で復帰できるかどうか心配です」と言うもんですから、「どれぐらいだったらいい」と訊いたら、「小学校に入るまでですかね」と言うので、6年にしました。今のところ、最長で4年8か月で戻ってきてくれた人がいるんですけど、多分、全国で一番長い育児休暇でしょう。いつ戻ってもいいことになっています。在宅勤務も自由にしました。
とにかく子育てしながら働き続けられる環境を作っています。こうすると、いいことがあるんです。当たり前ですけど、入社希望が増えます。いま、企業は若手の取り合いをしています。その人材不足の中で、サイボウズは転職人気企業ランキングでも上位に入っています。
若者も、最初は有名な大企業へ入りたがりますが、入ってみると、「ここは古いぞ」と分かり、「これから結婚して子育てすると思ったらサイボウズへ行こう」となって、僕のところに優秀な人が来てくれるわけです。いい感じでまわっています。
子育ての問題は、本当にいろいろなことと繋がっています。特に経済のベースになっていることをもっと認識しないといけないと思います。

■子育て優先にしたら離職率が低下した
松下 サイボウズさんは離職率も低下したとうかがっています。
青野 そうなんです。最近、割合有名な会社、大手銀行などでも、3年で3割が辞めていくそうです。若手が辞めることが社会問題になっています。サイボウズも以前は離職率28%でした。1年後には4人に1人が辞めていましたが、この10年は5%弱ぐらいです。IT業界の中ではもう圧倒的に離職率の低い会社に変わることができました。それも子育てを支援する企業になったのが大きかったと思っています。
松下 子育てと仕事を両立できる会社にしたら、離職率も下がり、入社希望者も増えるようになった。いいことづくめですね。
青野 僕は「制度」と「風土」と言っています。たとえば、男性が育児休暇を取ることは制度としては、もう国でも定められていて、企業でも制度があります。ところが、実際に会社で男性が育児休暇を取ろうとしたとき、「お前、男性なのに育児休暇取るの?」という空気になったら、やっぱり取れない。
なので、制度とともに風土も変えていく必要があります。
実は、3人目が生まれたときも休暇を取ろうと思ったんですが、妻から「あなた、休まなくていいわ」と言われたんです。「わたしが赤ちゃんを見るから、あなたは、上の2人の子を朝、保育園に連れて行くのと、4時半に迎えに行って、そのあと、面倒みて」と言うんですね。
そこで、僕は会社を4時に出て、ダッシュして4時半までに保育園へ行って、そのあと晩御飯を作るわけですよ。
そうすると、会社の中で何が起きるか。午後4時になると、社長が「お迎えに行ってきます」と行ってドーンと会社を出るんです。それを見た社員が、「社長が子育てを最優先にしているんだ、自分もやっていいんだ」となって、男性の育休率の取得率が上がりました。
今、基本的にサイボウズの男性社員は、子どもが生まれたら育児休暇を取るのは当たり前となりました。その結果、若い人が集まって、定着もしてくれ、いいですよ。僕は大変ですけど。

■男性育休が取れる企業に優秀な学生が就職する
羽生 いま、「男性育休」と言うと、サイボウズの青野さんは有名ですけど、いまのお話しぶりからもわかるように、結構、目立ったというか例外っぽく聞こえるんですが、わたしが今月、愛知県で大きな自動車企業の関連会社で聞いた話では、結構、中小企業でも今、採用の面接のときには、「地球温暖化」と「男性育休」の2ワードを言えば、絶対、入ってくれるそうです
地球温暖化は、皆さんが何とかしないとと思っていますが、地球は大きいのでひとりで何とかできることではないので、そういうことを考えている会社だと、ちょっといいなと思う。そこへ「男性も育休を取ってください」と言うと、百発百中でいい学生が取れるとおっしゃっていました。
青野 逆に、男性が育休を取りにくい感じだったら、避けられてしまうわけですね。
羽生 そうなんです。どっちかだけでも今は駄目みたいです。男性育休だけ言っても、国が言っているから言っているだけで、本当に取れるのかなと思われるので、そこに地球温暖化も言うと、ああ本当にこの会社はいろいろ考えているんだとなるそうです。
男性育休は、すごいキーワードです。地方の企業でもそうです。
松下 企業の採用担当者の方いらっしゃったらぜひ参考にしてください。
羽生 若者の気分が、そういう感じなんだと思います。
松下 男性育休について思い出すのは、15年前、わたしが出産したときのことです。夫は民間企業に勤めていたんで、「育休あるか調べてよ」と言ったら、「あったよ」「何日」「3日間」という返事でした。「3日間って、それで育休なの? 単なる有給じゃない」と言って倒れそうになったのを覚えています。多分、当時、男性の育休がある企業でも数日だったと思います。
羽生 いま、全国の平均が8日とか言われています。
松下 まだ8日ですか。
羽生 でも、すごい大改善だと思いますよ。その前は1日だったんですから。

■育休もだが、時短も大事
松下 女性が産休・育休で1年とか取るのを考えると、さっきお話の出た、小学校に入るまでという需要というか声があるなか、3日とか8日では少ないなあと思います。ただ、いろいろお話をきくと、育休よりも「時短」のほうが大事みたいです。時短勤務、短時間勤務です。青野さんが4時でお迎えに行っているように、時短によって、夕方、保育園のお迎えに行き、ご飯を作って寝かせることができるほうが大きいと聞きます。
青野 そうですね。子育ては、赤ちゃんが生まれてから大きくなるまでずっと続いていくんです。それなのに、ある2週間だけ育休を取っても、意味があるかなというのはありますね。
1歳になっても2歳になっても、熱を突然出したりしますからね。そういうとき、いつでも戦力に入れる状態を作っておくことが大事なんです。
松下 だから柔軟な働き方と、子育てがうまくリンクするといいと思いますね。実際に育休をとっているモデルがいないと、若い人は、本当に男性も育休を取っていいのかわからないので、青野さんのように、社長自らが率先しているのはすごいと思います。

■子育ての風土を変えたい
松下 青野さんが、さきほど、「制度と風土」とおっしゃいました。わたしはよく「空気」という言葉を使っていたんですが、大事ですね。
わたしが子どもを育てていたとき、いちばん嫌だったのは、電車やバスに乗って、ちょっとしたことで子どもがぐずったりしたとき、他のお客さんから舌打ちが聞こえてくることがあったんです。「ち、子どもが泣きやがって」みたいな。それがひとりだけじゃなくて、何となく電車全体の空気がそうなって、「すみません」って、まだ降りる駅ではないのに降りてしまったこともあります。そういう「子どもはうるさいもの」という空気が、実は日本の少子化を加速しているんじゃないかなと常日頃思っているんです。
赤ちゃんが泣いたら、「あら、アンチエイジングでいいわね。とてもいい声ね」と声をかけてくださった女性もいて、すごく嬉しかったこともあります。周りも和みました。たしかに、赤ちゃんのワーという泣き声は、生命の象徴なんですよね。赤ちゃんは何を考えているのか分からない、泣いている理由は予測不可能ですが、それは当然なんです。
子育てをしている人も、していない人も、そういうことをもっと理解して、子どもに寛容な社会なり空気が、もっともっと増えたらいいなと思います。

■子育てをしにくい国、日本

羽生 偶然なんですが、今日、こういうデータを持ってきました。毎年、内閣府がやっている調査で、「子どもを産み、育てやすい国だと思うか」という調査です。毎年同じ結果が出て、毎回がっかりするんです。これ、女性だけでなく、男性にも訊いています。
【とてもそう思う 10.8パーセント
どちらかというとそう思う 41.5パーセント
どちらかというとそう思わない 33.7パーセント
まったくそう思わない 14.0パーセント】
日本は男女ともに「育てやすい国だと思ってません」と答えた人が47.7パーセント、半分近く。これではやっぱり少子化になると思います。
他の国はどうかというと、スウェーデンは97.1パーセントが「育てやすい」と答えています。フランスは、82パーセント、ドイツも、77パーセントです。
次に、いま(松下)玲子さんの話にあった、「子どもが泣くことや騒ぐことで周囲に責められているのではと不安になりますか」という妊産婦への調査もあります。
63パーセントが、「そう感じている」と答えています。とてもこんな状態では、ひとり産んだら、2人目も、とは思わないですね。
最近、「ベビーカー難民」という言葉があります。ベビーカーがないのではなく、ドトールとかスターバックスなどに、ベビーカーで行くと、それこそ「チッ」ってやられて、しょうがないので出ていくわけです。次のお店に行くとまた「チッ」となって、電車の中も同じです。行く場所がない。周囲から責められているように感じるんです。
次は、育児中に「自分の時間として使える時間」についての調査です。使えるのは、深夜と早朝しかないんですよ。
その結果、「子育て中はメンタルが悪化しても仕方ない」と感じるのが65パーセント。
ちょっと嫌な話なんですけど、こういうのがデータとしてもあります。寛容な社会になっていないんだなと思います。
松下 本当に衝撃ですけども、これは制度をもっと整えていけばいいのか。でも、制度だけじゃない。やっぱり、わたしは「空気」と言っていましたが、青野さんが「風土」とおっしゃって、「制度と風土」のほうがわかりやすいので、わたしも「風土」と言おうと思いますが、その風土が、子育てをしやすいようになっていない。
子どもや赤ちゃんが自分では何もできないことは、わたしも育てるまでは、分かっていたようで分かっていませんでした。赤ちゃんは、ミルクを与え、おむつを変え、お風呂に入れてあげなければ、自分では何もできないし、泣いても何をしてほしいのかも教えてくれませんよね。本当に予測不可能です。
こんなにも予測不可能なのかってことは、わたし自身、育ててから初めて分かりました。
ですから、それを経験したことのない人は、赤ちゃんが泣いていると、「何とかしろよ」と言うんです。だけど、何とかできないから泣いているわけで、「何とかできるんならあなたが何とかしてよ」と思ってしまいます。
そういうことを、皆さんと共有できたらいいかな、そういう風土を変えていき、そしてやっぱり制度も整えていかなければいけないと思います。

■男女のペイギャップが日本は世界ワースト
羽生 もうひとつ、こういうデータもあります。「男女のペイギャップ」です。「教育投資差額」とも言いまして、生涯で稼ぐお金から成人するまでに(親が)投資した教育費、それは学校にかかる費用だけでなく、ピアノを習ったなども含む金額の総額を引いた額です。
その各国の男女別のデータがあります。これを見ると、日本の男性の金額はOECD平均と同じくらいです。男性は世界と同等に稼いでいます。でも、女性は32か国のなかで最下位です。日本の女性は自分に親が投資してくれた額とほとんど同じくらいしか、生涯で稼げないんです。
何を意味すると思いますか。少子化とか男女のあり方とか、結構、いろいろと解釈はできるので、わたしがこれから言うことだけが正解ではないのですが、わたしは「女性の心象風景」だと思っています。「社会から沈んでしまっている」という気持ちがすごくあります。
わたしは、いま、東大、京大、早稲田、お茶ノ水など10くらいの大学で、男性も女性も教えています。みな、女性は同じことを言います。「わたしには弟もいて、これまで同じように、お味噌汁を食べて、同じお風呂に入って、同じように両親から愛情と期待をかけられて、この大学に入りました。なのに会社に入った途端、さらにお母さんになった途端に、あなたはもう稼がなくていいよ、あなたの役割は家庭にはいることが第一義だから、となるんですね」と。こうやって女性は沈んでいくんです。
これ、国際比較すると分かるんですが、異常値なんです。
実際、OECDも、国連からもIMFからも国営からも「指名手配」と言うわけじゃないですけど、「このギャップはおかしいでしょう。どうにかしなさい」と言われているんです。
韓国も、家父長制の社会だと言われていますが、その韓国よりも日本は低いんです。ラトビア、ギリシャ、エストニアの5分の1です。つまり、「女性も男性も同じだよ」と言われて大学まで行っても、家庭に入ったとたんに稼げない。

■女性は正規雇用が少ない
羽生 ずばり言うと、非正規雇用の問題です。女性は正社員を続けられない、続けなくていいとなっている。そのデータがこれで、新聞は「L字カーブ」と呼んでいますが、女性は出産後、正規雇用が減少するんです。
昔は「M字カーブ」と言われました。M字カーブは、出産すると1回ちょっと仕事を休みますが、子育てが落ち着いたらパートに出て、職場に戻るというのが「M」でしたが、いまは、それが消えて、台形のようになっているんです。
女性の労働人口は世界でトップクラスなんです。仕事を辞めないんです。だけど、女性の労働人口の53%から非正規雇用だから、お給料が低く、それが積もり積もると、こんなに男女で違ってくる。
これも少子化と子育て支援対策とどう関係があるかと言いますと、令和の今の大学生の女性だけじゃなくて男性学生も、このグラフを見ると、「これちょっと、きもいんですけど」と言います。これは人権侵害なんです。女性は独りで生きていけないわけです。離婚なんてできない。こんな状況は、男性も嫌なんですよ。男性と女性が両輪で一緒に家庭を営んで、かわいい赤ちゃんを産んで育てたいのに、「これじゃ、きついですね。もう、子育てとか無理です」と、けっこう言われています。
松下 いまパートのお話も出ましたけど、年金など社会保障制度の話になりますね。戦後日本の経済成長を支えた家族モデルの上に成り立っていた社会保障制度が令和の今もずっと続いてるから、いろいろ矛盾が起きています。
その戦後の日本を支えた家族モデルとは、企業で働くお父さんと、それを支える専業主婦のお母さん、そしてお母さんは時々パートに出るというもので、それを制度として支えているのが、いわゆる年金の第3号被保険者制度です。「130万円の壁」と言われているもので、夫の扶養のもとで働いていれば、妻の年金は払っていなくても払ったことになります。でも、扶養範囲の130万円を超えると、多く払わなければならなくなる。だから、「130万円の枠内で働くのが得ですよ」ということになっています。
でも、得のようでいて、本当は得じゃない。働く意欲も能力もあって、働けるのに、働かない。そうやって枠に押し込められていることは、今の労働力不足、人口減少の社会では、モデルとして成り立たないと思うんです。

■飛行機で泣く赤ちゃんがいたら、「気にしないで」と一声

羽生 それが回り回って、家庭内で、いえ家庭だけじゃなくて社会のなかで、子どもがギャーギャー泣いたら「黙らせるのがお前の仕事だろう」となっている。そして、「女性だったらそんなこともできないでどうする」と責められているような気もするんですよ。
先日、国内線の飛行機に乗ったときの話です。赤ちゃんがギャーと泣いていて、わたしもちょっとしんどいなとは思っていたんです。30分ぐらいずっと泣いてたから。
当然、お母さんには、3本の矢どころか30本ぐらいの矢が飛んでくるような感じだったんですが、びっくりしたのは、隣にお父さんがいるんだけど、ずっと窓から外を見ているんです。「おれ、関係ない」って顔して。その夫婦の関係もどうかと思うんですが、周りも、「赤ちゃんが泣いたら、まずは女が黙らせるものだよね」という雰囲気で大変だと思う。その性別の固定しまくった役割が、問題だと思うんです。
青野 そのお父さんに代わって、謝罪させていただきます。
子どもが泣いたとき、矢を刺してくる人もいるんですが、そのまわりで、シラーとしている人たちがどう思っているのかも分からないまで、責められている気がします。僕も1回、矢を刺されたことがありますが、そういうことがあると、子どもを何とかしないと周りからまた矢が飛んでくるかもしれないという緊張感が、ものすごくストレスになってると思います。
ぜひ皆さんにお願いしたいのは、赤ちゃんが泣いているとき、「気にしないでいいよ、赤ちゃんだもの」と、ひとこと言ってくれるだけでいいんです。それがどれぐらい嬉しいか。
他の国へ子どもを連れて行くと、周りの人がちょっとかわいがってくれることがあり、それだけで、この国は子どもに優しいんだなとなって、楽しく旅行できた経験もあります。
日本人も、子育てをしてる人がいたら、もう一歩踏み出して、「気にしなくていいよ」の一声が欲しいですね。まさに、それが制度ではカバーできない、風土だと思うんです。
育児休暇の補助制度などは、日本の方が他国より進んでいます。
羽生 それは、本当です。世界でもピカイチです。だから、みんな会社を辞めないです。
青野 足りないのは、風土じゃないかと。もうちょっとみんなが子育てに関心を持って応援する雰囲気を作るだけで、嬉しくなって、「もうひとりか2人、子どもがいてもいいかな」と思ってくれる。
羽生 街を見ていてると、最近は若いお父さんが前抱っこして、たどたどしくて、うまいこといかなくても、「やっぱりお父さんだから仕方ないか」みたいな、そんな優しい空気が漂うんです。わたしは、それいいなと思って。そういう完璧じゃない子育てを許容する入口として、ぜひ男性がいろいろと、たどたどしいことを吉祥寺の中でやってみてほしいと思うんです。
海外からのインバウンドのお客さんの子どもが暴れても、日本人はみんな優しいですから。しょうがないな、ちょっとルールが違うからなって感じで。たとえば、電車で靴のまま座席に乗ってワーッとかやっていても、ニコニコしてますよ。それと同じように、日本の赤ちゃんにも適応してほしいと、いつも思います。
今は転換期だから、もうちょっと寛容性があるといいな。

■子育て支援への世代間ギャップ
松下 風土を変えるのが本当に大事ですが、でも難しい。最近、少し年配の方から、「昔はそんな制度はなくて、もっと大変だったのよ。今の若い人は甘えている」と言われてしまいました。世代間のギャップがあるのでしょう。自分が苦労したことを、若い人には苦労させたくないと思うか、自分も苦労したんだから今の若い人も苦労して当然と思うかで、違ってくるのでしょうか。
そのあたりは、わたしの中でまだちょっと整理がついてないんです。ただ言えるのは、子育てに関しては、ある期間が過ぎると終わりわけじゃないですか。意外と短いんですよね。永遠には続かない。オムツ替えたり、食事与えたり、ぜんぶやっていたのが、あるときからしなくてよくなる。
それまで自転車に乗せて保育園への送り迎えをしていたのが、小学校に入ると自分の足で歩いて学校へ行くんですよ。わたし、感動したんですよ、今日から自分で行くんだって。今じゃもう、東京どころか他県へまで部活の大会へ行っています。15歳、羽ばたいています。
子育ては、その人にとって期間が限られているので、課題なり問題があっても、我慢してしまえば、いつか問題がなくなってしまう。だから、継続した運動になるのが難しかったと思います。
待機児童の問題は、「保育園落ちた、日本死ね」以来、社会的なムーブメントとなって、解消されるようになってきました。今だと、給食費の無償化がムーブメントとなっています。
自分はもう子育ては終わったけれども、その問題について考え、制度として確立して、子育て支援をしていこう、応援しようというのが、社会全体で続けばいいと思っています。

■ロンドン金融界が「役員の3割は女性」と決めた理由
羽生 正攻法じゃないけど、似たような事例があります。いま上場企業は取締役に何割か女性を入れないと上場できなくなっているのをご存知でしょうか。数字ありきでいいのかという議論もありますが、3割が女性でなければいけないんです。この目標をパーンと決めて世界でリードしたのは、30パーセントクラブという、ロンドンの経済界の重鎮たちなんです。彼らが取締役の3割は女性が必要だと決めました。決めたのはトップバンク、メガバンクの頭取たちの7人で、全員男性なんです。では、なぜそうなったのかというと、全員、お孫さんが女の子だったんです。自分の孫は、とても頭がいい。だけど、このままでは女だと金融界では活躍できないぞ、というので、3割は女性にしようと決めたそうです。
それを知って、ガクッときたんです。結局、自分が大事なのかって。だけど、それでもいいと思うんです。青野さんもよこしまな動機で育児休暇を取ったけど、それと同じで、いいじゃないですか。
青野 選択的夫婦別姓でも、最近、賛成する議員さんが増えてきたのは、自分の娘が結婚するのがきっかけなんです。このままでは自分の名字が引き継がれないと分かって、いきなり賛成になるそうです。
羽生 それでやってみたら、結構、いい風景が広がっていたのなら、いいじゃないですか。いろいろな変革とかイノベーションも、最初は外圧でいやいやというか、渋々やっていたけど、結構いいんじゃないかってなるわけです。

■人口が増えれば税収が増える
羽生 市長選挙では、子育て支援の必要性を説明するのが大変だったんですよね。
松下 はい。そこを乗り越えてきました。丁寧に高齢者の方にも、「子育て支援が必要なのは、たとえば皆さんの老後を支えている年金は、皆さんが積み立てた貯金ではなく、現役世代からの仕送りなんですよ」とか、いろいろ説明しながら。
青野 実際にもう数字が出始めていると思うんです。大きく子育て支援に力を入れた自治体は、当たり前ですけど、働く世代が転入してきます。その結果、気づいたら税収が増えるわけです。
松下 人口増は税収増になります。
青野 子育て支援策をすると、街全体が潤うということが少しずつ理解され始めたと思っています。
松下 有名なのが西では兵庫県の明石市。前市長の泉房穂さんの時代に、それまで借金だらけだったのが、人口が増えて税収が増えました。明石は人気が出て、活気も出てきました。西は明石市、東は武蔵野市も人口増で税収増です。
青野 素晴らしい。
松下 武蔵野市はいち早く、18歳までの子どもの医療費無償化に取り組んでいました。今年から東京都が都内全域で始めました。それより先に、武蔵野市は多摩地域トップで始めました。
青野 これ、先にやらないとブランディングできないので、一番はいいですね。
松下 別に、いち早くとは思わなかったんですが、早くやらなくてはと思ってやったら、一番になったんです。ただ、結構大変でした。やっかみもありました。武蔵野市は税収があるからできるんだという、言い方をされました。
ちょっと話がそれますけど、よく「武蔵野は税金が高い」と言われるんです。たしかに税収は多いですが、消費税も所得税も、税率は全国一律です。武蔵野市だから高いわけではありません。武蔵野市の税収が多いのは、課税する土地の値段が高いとか、所得の高い人が多いからで、税率を上げているわけではありません。そこを誤解しないでほしいです。なんか伝言ゲームのように、「武蔵野市は税金が高い」と思われているようなので。

■「130万円の壁」
羽生 話が戻りますが「扶養の枠内で働きたい」という問題ですが、日経にいたとき、部下が最大100名ぐらいでした。その中でも、3割以上が非正規雇用だったんです。だからわたしにとっても、非正規雇用は「不都合な真実」なんです。すごいもう、二言目にはみんな「枠内で働きたい」と言うんです。そこで真顔で「枠って何の枠?」とこちらから訊くと、言えないんです。「いえ、夫の年末調整で、チェックボックスに入れないと損してしまうから」と言うので、「そのチェックボックスって何か分かる?」と言うと、「なにか税金に関わってるらしいです」という程度。
「103万円の壁」「130万円の壁」というのが、よく知らないままに、口伝のように受け継がれているんですね。「妻たるもの枠内で」という固定観念になっているようです。年末調整での質問がちょっと古いと思います。みんな、もやもやしながら何のことか分からないで、自分で自分に蓋をしているようになっている。
松下 もったいないですよね。働く意欲と能力のある人が、得すると思って、わざわざ枠内にしている。本当は、得していないんですよ。枠を超えても、意欲や能力を生かして働いた方が、収入も増えます。それで払うべきものを払えばいいんです。
羽生 わたし、試算したことがあるんです。同じような設定で、収入を増やして、月に1万5000円ぐらい積立NISAをできたら、そのほうが税金も得だって、説明できるんです。そういうことが分かっていないんです。調べないで、考えないで、「ママは枠内」と決めてしまっている。そこを、もうちょっと分かりやすく伝えることができたらと思っています。
日本全国でいろんなアンケートがありますけど、子育てをヘビーと感じるからしたくない、2人目は難しいと感じる理由の一番は、お金なんです。これは女性を責めているわけじゃないんです。それこそ空気が、そうなっている。その負のスパイラルはもったいないといつも感じています。
松下 「130万円の壁」は、妻が夫の扶養の範囲内でいるためには、妻の年収が130万円を超えてはいけないというものです。130万円以上の年収があると、国民年金と国民健康保険に加入しなければならなくなり、いままでは払わなかった社会保険料を払わなければならないので、多く稼いでも、手取りが減ってしまうということです。
ただ、これはサラリーマン家庭だけの話です。自営業者と農業の方は1号、サラリーマンだけが2号で、その妻たちが3号で社会保険料を払っていなくても払った扱いとなります。これが「130万円の壁」です。

■2年の先送りでいいのか
松下 これが、2025年に予定されている年金制度の法改正に向けて、検討が始まるんですね。ストレートに検討すると、議論が別れるところです。先日の厚生労働省の検討会では、社会保険料については、2年は、たとえ130万円を越えても、扶養の範囲と認めますという方針になったようで、これを新聞で読んだとき、わたし、ちょっと衝撃でした。
羽生 その衝撃とは、どういうことですか。
松下 いま人手不足で、物価も上がって最低賃金が10月に上がります。そうなると、パートの人は、時給が上がると、130万円を超えないようにするために、働く時間を減らすんですね。いままで時給1000円だった人は、130万円以下にするために年間1300時間まで働けたけど、時給1300円になったら1000時間にしようとなるわけです。
だから、企業が労働者を確保したいと、いくら時給を上げても、この制度がある限り、パートの人はその枠内でしか働かないから、年末になって1000時間を越えそうになると、12月は休みますということなってしまう。いちばん忙しい年末に、パートさんがいなくなってしまう。
これから労働力も減っていくし人口も減っていくなかで、どうするかを議論しなければいけないのに、2年間は越えてもいいことにしてしまおうと、問題を先送りしたことについて、衝撃、ショックでした。さっさと、「130万円の壁」を取っ払えというのが、私の考えです。
夫の扶養になるのではなく、みなひとりひとり年金保険料を払う。農業者や自営業者は、夫も妻もひとりひとりが年金保険料を払ってます。それと同じように、サラリーマンの妻も、本人が働いていようがいまいが、ひとりずつ払うように制度として確立すべきと考えています。
実は、20年ほど前に、勤めていたサッポロビールを辞めたのは、この制度に関して、会社の中で不正があったのを見つけてしまったからなんです。そのとき、社会保険制度はおかしい、これを変えたいと思ったのが、わたしの原点なんです。
その原点が20年経っても変わらないんで、本当になんとかしたいと思っています。
青野 ようやく、そこに手が付けられるようになったなと感じています。103万の壁、106万の壁、130万の壁と、ずっと言われてきたじゃないですか。
これは「制度」と「風土」で言えば、制度の問題で、制度が風土を縛っているところがあるので、制度を変えなければならない。ようやく、なんとなく一歩前進かなと思っています。2年というのは微妙ですけど。
松下 2年の間に決着をつけないといけないと思います。そして、意欲と能力のある人が働いて、同一労働同一賃金も実現する。
青野 さきほどの、日本が不名誉な一番になっていたグラフを、どうにか変えていかなければ。
羽生 経済的に展望があると、女性も能動的に生き生きと、「自分もファミリーを持てると思う」ようになる。これは、「急がば回れだ」と思います。女性の心象風景が「社会から沈む」で、負のスパイラルになっているなんてことは、なかなか男性の議員さんが自分のことのようには言えないと思うから、こういうところに女性の議員の声が必要だなと思います。

■少子・多死社会の現実

松下 少子高齢化社会と言われてれいますが、わたしは「少子多死社会」になったと思ってるんです。それでデータを見てみました。
政府が「異次元の少子化対策」を発表した背景には、昨年(2022年)1年間に生まれた子どもの数が77万人と、80万人を切ったことが大きかったと思います。実は、今年はもっと減って、上半期1月から6月に生まれた人数は、すでに30万人くらいで、去年よりもさらに減るだろうと言われています。
では、昨年亡くなられた人の数がどれくらいだと思われますか。156万人なんです。
羽生 生まれた数の倍以上が亡くなっているんですね。
松下 人口減少と言われていますが、156万から77万を引くと79万人、その他の自然減もくわえると、80万人。これはだいたい山梨県の人口と同じです。イメージしてください。1年間に山梨県の全員がいなくなっているんです。武蔵野市で言えば、人口15万人くらいですから、6倍近くがいなくなるんです。
わたしは1970年に生まれました。その52年前はどうだったかというと、生まれた数は190万人でした。亡くなった方が70万。190万人生まれて70万人が亡くなっているので、120万人プラスなわけです。
これが52年たつと、80万人マイナスになった。ここに大きなギャップがあるというのが、リアルなんです。
羽生 うーん、これだけ減るとね……いや…、ものすごい卑近な例を言わせてください。表参道に、おしゃれなコーヒー屋さんがあったんです。そこにいて、夕方の6時半になったら、「もう閉店です」と言われたんです。表参道ですよ。都会のど真ん中ですよ。それで、「どうしてですか」と訊いたら、「バイトがいないんです」と。
わたしは、これからその店で仕事をしようと思っていて、テーブルにいろいろ広げ、さあ、書こうと思ったところだったんです。
青野 そんなおしゃれなコーヒー屋さんでも、バイトがいないんですか。
羽生 トップクラスのカフェですよ。コーヒーが780円くらいしたから。そんな所でも、働く人がいないんです。人口減の身近な話でした。

■人口減少のリアル
松下 そういうリアリティをみなさんと共有したいなと思いました。
武蔵野市単独で見てみますと、1年間で生まれる数がだいたい1000人です。1年間でお亡くなりになられるのも1000人で、トントンなんです。でも人口は増えています。流入があるからです。新しいマンションができて引っ越してくる人がいるからで、微増ですが人口が増えて、今14万8000人です。
わたしが武蔵野市に来た18年前は、13万6000人くらいでした。この間、1万2000人、増えています。生まれる数と亡くなる数は同じですが、少しずつ流入が増えています。
武蔵野市の友好都市に、長野県の川上村がありまして、夏休みの期間に、各青少年協議会の地区ごとに、ジャンボリーという行事をしています。武蔵野市が川上村に施設を持っていて、コロナで中止になっていましたが、今年、4年ぶりに本格的に開催したので、わたしも行って、村長さんとお会いして、人口の話になりました。川上村は「生まれる数が、60人、亡くなる数は何百人」「武蔵野市はほぼ同数です」「うらやましい」と言われました。
羽生 そうなんですね。ハモニカ横丁へ行ったら、「バイトがいないから、何も出せません」なんて言われたら、いやですものね。
松下 青野さんが「子どもとか子育ては経済学的な視点で捉えたほうがいい」というようなお話をされましたが、まさにそれだと思います。人口減少が社会にもたらす影響は、働く人が不足すること、社会保障制度が成り立たなくなることです。DXとかデジタル化とかで、できることはできますけど、できないことも多いです。公共交通とか。
青野 郵便局など、配達が減っていますね。土曜日はもう配達できませんとギブアップしています。当然そういうことがこれから増えてくる。ヤマト運輸は郵便局とラストワンマイルのところを共有化しようとしています。両方で別々にやっていると大変だから、ヤマトと郵便局の荷物をまとめようとしています。
こういう動きは序章に過ぎない。人口が減り続ける限り、こういうことが起こり続けるということですよね。
松下さんや僕は第二次ベビーブーマー世代で、1学年200万人くらいいたのが、いまはその3分の1。次の50年でさらに3分の1になったら、とてもじゃないけれど、サプライチェーンはいまと同じサービスは維持できません。
20年ほど前に介護保険制度ができてから、介護は社会化されました。保険制度のもとで、家族の力だけでなく、家族以外の方のヘルパーさんやケアマネージャーさんなど、いろんな多職種の方が連携して介護を支えていますけど、これから人がいなくなったら、介護保険制度そのものが成り立たなくなっていきます。
そういう思いで、子育て支援や少子化対策に取り組んでいかなければならない。このことを、ぜひとも皆さんと共有したいと、わたしは思っています。
青野 「少子化爆速」とありますが、まさにそうなんです。すでに、徐々に進んでいる感じではないということを認識したほうがいいですね。毎年、山梨県がなくなるペースで進んでいるんですから。
よく、それならば「移民をどんどん受け入れればいい」と言う人もいますが、1年間に山梨県1個分の移民を入れられますか。相当無理がある施策ですよ。
羽生 移民どころか、若い人は日本を出て行ってますからね。それなのに、外国から来ていただくなんて、めっそうもございませんって状況ですよ。経済環境が、今そうなりつつあるので、それをどうするかを考えておかないといけませんね。

■子育てしやすくするための制度とは
松下 では、具体的にどんな支援策をしたら、子育てしやすいと思うか、風土ではなく、制度の部分で、少しお話したいと思います。
羽生 少子化というのは、「女性活躍」とか「ジェンダー平等」の結果だと思っています。少子化対策が目的になってはいけないと思っています。母親、妻に子育てを丸投げする構造があります。女性が子育てもして130万円の枠内で働いて、うまくまわっていた時代がありました。わたしはその時代を丸ごと否定するつもりはないんですが、人口とか賃金とか、男性の労働間の意識の変化のもと、このまま丸投げしていたら、母親は疲弊しまくっていて、「共働き」はできるけれど「共育て」はできません。
「女性を支援する」と言って、企業も「早く帰っていいよ」とか、保育園クーポンをあげたりしましたが、蓋を開けてみたら、それは「ワンオペ支援」だったんです。
「ワンオペ支援」というのは、「女性だけに子育てをさせる」ということです。「出勤してもらうけど4時半で帰っていいよ、そのあと、家庭で労働してね」ということです。
データを見ると、日本の女性は世界でいちばん睡眠時間が短いんです。特に子育て世代の女性は眠れていません。
やっぱり意識のところを変えていかなければいけない。意識をどうやって制度に変えるのか。それは地道ですけど、男性育休とかです。あと、社会インフラとして、お母さんが日中にひとりでどこかへ行っても、後ろ指をさされないような制度、施設が必要だと思っています。
あとは先ほどから話に出ている扶養控除の問題です。単に昔から続いているというだけなので、「扶養の枠内で働くのが普通」というのを、ソフトで言うとアンインストールしてほしいです。Windows 85ぐらいで働いているようなものですよ。1980年代モデルのパソコンみたいな、1970年代までの日本型福祉社会を引きずっている。インターネットもない、パソコン通信の時代が続いている。
松下 なるほど。制度を変えなければということですね。
羽生 意識の下にはやっぱり制度があると大きいですね。

■子育て支援に所得制限をするべきか
松下 子育て関係のことでも所得制限があり、去年の秋に、児童手当は15歳まで一律5000円だったのが、所得が一定額ある人には0になりました。その所得制限は、だいたい、税込みで1200万円の年収のある人には、手当を切りました。でも、夫婦どちらかの高い方の年収が1200万円だと切られるので、夫婦ともそれぞれ1000万円だと、切られないんです。家族単位で見ると、夫・1200万円、妻・0円で合計1200万円の家庭は切られて、夫・1000万円、妻・1000万で合計2000万円の年収の家庭は切られていないという、「謎ルール」なんです。
わたしは根本的には、所得制限は子どもに関してはなくすべきだと思っています。子ども自身に所得があるわけではなく、親の所得ですから。「子どもは親が育てるもの」という発想があるから、そうなっています。そうではなく、0歳から18歳までは、親の所得に関係なく、社会全体でみんなで支えて応援していこうという発想にしたい。
日々の暮らし、食費などは、保護者が負担します。そうではない、医療費や学校給食など、みんなで支え合おうとしたものについては、所得制限をかけるべきではないというのが持論なので、武蔵野市では、できるだけそうしています。
子育て支援の理念をどこに持っていくか。古いものをアンインストールするのは個人なのか、社会なのか、法的な問題なのか。やはり制度を変えていきたいですね。
羽生 制度の上に意識があると思います。日々の行動の集合体が意識だと思う。
青野 所得制限は、本当に意識に与える影響があるなと思います。お父さんの所得が高いと補助が受けられないとなれば、高い人は、「それなら子どもは持たないほうがいいね」と考えるんですよ。合理的に考えると、そういう話になるんですよ。そういう制度になっているということは、そういう風土を作りたいのかと受け取ります。
制度では、矛盾を作らないことが大事だと思います。一貫性を持った、とにかく子どもを作って育てる人を、みんなで支えようというのが、はっきり見える制度にしないと、風土は変わっていかない。

■若い人ほど私生活とバランスのとれた働き方をしたい
松下 新しく発足した「こども家庭庁」で議論ができているのか、異次元の少子化対策はこれから財源論になり、政府が財源を提案するのですが、どう出てくるのかに注目しています。羽生さんは内閣府などの委員会で、この間、議論されてきましたが、ご紹介いただければ。
羽生 直接今のテーマとはちょっと違うんですけど、子育てとか消費者の話となると主語が「女性」「お母さん」となってしまうんですが、そこで分析を止めていると、結構、手痛いしっぺ返しがくるんです。
たとえば、「どのような仕事が理想的だと思うか」という世論調査では、「私生活とバランスが取れる仕事」と答えた人が、地域別では東京がちょっと抜けていて多いんですが、あとは、村だろうが市だろうが、あまり変わらないんです。「死ぬまで仕事」という人が、ここにもひとりいますが、個人の自由です。社会が強要するかどうかという話です。
性別では、女性のほうがちょっとですがバランスを重視しています。ここだけ見て分析すると、「女を雇うと早く帰りたがる」ということになってしまい、男性を雇うことになってしまうんですが、ここで分析を止めないで、ジェネレーション別に見てみると、男女ともに、若い層ほど私生活とのバランスを重視しているんです。女性だけの話ではなく、若い男性もこのように変化しています。もちろん、子育ての話も関係あります。その結果、若い人はサイボウズにみんな就職するようになる。
青野 本当、この通りですね。僕たちはジェンダーの問題と勘違いしそうなんですけど、実は若い人は、男性も女性もみなバランスを取った働き方をしたいし、男性も「育休を取りたい」と言います。若い人が集まる活気のある会社、活気のある街を作るように取り組まないと。
羽生 これは内閣府の「少子化社会対策大綱検討会」や、「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)」のときも、何度かお話しさせていただきました。

■思いつくことは全部やれ!

松下 これから、国や自治体が検討したり取り組んでいることのなかで、ご自身の子育ての経験からも、この制度が全国一律、みんなに等しくあったら子育て支援になる、少子化の解決する兆しが見える、というものがあったら、挙げてください。
青野 反対されるかもしれませんが、僕は「思いつくことを全部やれ」という考えなんです。なぜかというと、世の中そんなに簡単に解決できる状態ではなくなっているからです。所得の高い人もいれば低い人もいるし、若い人もいればそうでない人もいるし、いっぱい働きたい人もいればそうでもない人もいる。だから、いろんな個別の施策をやり倒すという感覚を持った方がいいと思っています。
それは僕たちの会社でもやってきたことなんです。「働き方の多様化」を言っていますが、サイボウズの働き方は、「100人100通り」というのがスローガンなんです。
個別に対応するんですよ。そうすると、抜けや漏れがなくいける。それを、「いまの若い人はこうだろう」と一律的にやろうとすると、もちろんそれに当てはまる人は拾えますけど、当てはまらない人は、拾えない。若い人もいろいろです。男性もいろいろだし、女性もいろいろ。それを前提に、徹底的に、思いつくことを何でもやるぐらいのつもりじゃないと、爆速少子化は止まらない。
松下 なるほど。思いつくことは何でもやれ、ですか。いま、なにか思いつたことはありますか。
青野 先日、ブライダルの話が出ましたね。結婚式の費用を補助してあげますとかいう話でしたっけ。
松下 披露宴会場の会社のほうに補助しましょうという話です。
青野 そうしたら、「そこじゃない」と、ワーっとツッコミが来て、炎上しましたね。でも、結婚式代で困っている人もいることをちょっと想像してあげてほしい。
なにか新しいアイディアが出ても、そうやって叩いていくと、次のごアイディアが出にくいので、とにかく、ちょっと外れているなと思っても、「それはそれでいいけど、他も頑張ろう」という感じで、寛容に捉えてほしいと思います。
実際、若い人たちの少子化の問題を因数分解していくと、結婚しない人が増えていることが、大きな問題です。結婚した人はそれなりに子どもを産んでいます。結婚しない人の割合がそもそも増えている。やっぱり結婚という上流に遡って支援していくぐらいのことをしないと、少子化は止まらないと思います。
松下 あの手この手でなんでもやれというのは、その通りだと思うんですが、あの披露宴の補助が炎上した背景には、リアルに子育て中の人からしたら、仕事と子育ての両立で毎日、本当に大変な人からしたら、「そうじゃないだろう感」が溢れたんでしょうね。
青野 その人にとってはどうでもいいことでも、「いまプロポーズしたいけれど結婚式の費用をどうしよう」と悩んでいる人だって、いるわけです。自分の基準だけで物事を考えない社会にしないと、変わらないです。
松下 それが「公」の役割なのか、「私」の役割なのか、そのミックスなのかが、大事かなと思っているんです。いつだったか、「子ども食堂はクラウドファンディングでやればいい」と政治家が言って、叩かれたんです。「子ども食堂こそ、民間任せにせず、もっと公がやるべきじゃないの」と。公の役割だから税金を使ってするのか、補助をして支援をするのか、全額出すのか、本当に議論が必要です。

■3兆円で少子化が止まるなら安い
青野 いま、異次元少子化対策で、どれくらい予算が必要かというので3兆円という数字が出ています。これ、大したことないじゃんと思うわけですよ。3兆円で、この国の絶対的な爆速少子化の危機を止めにいけるんだったら、大した金額ではないと僕は思うんですよ。
一方、マイナカードでこの国は3兆円をすっているんですよ。あのプラスチックカードをみんなに配るのに3兆円もかけてしまった。そっちに3兆円をかけるより、少子化を止めるのに3兆円を、あの手この手と打ちまくったほうがいい。
松下 分かりました。子育て支援の3兆円の中で、こっちにまわせ、あんなことに使うなと、喧嘩するのではなく、他と比べた方がいいですね。
青野 そうです。国の存続の危機ですから。そもそも人口減というのは、税収ゼロに向かっているということですよ。これを止めたいんだったら、3兆円は全然安いと思います。
松下 わたしは、行政のデジタル化を否定するものでございません。ただ、マイナンバーカードはどう見てもアナログです。紙じゃなくてプラスチックなだけで、カードはカードですから。しかも5年ごとに本人確認、10年ごとに再発行と決まっていて、さらに番号が2種類。大変ですよ。もうちょっと考えて、発行にお金をかけずに、スマホに入れるとか、スマホを持たない人には別の方法を考えるとか。あとポータルが重要だというのなら、カードはいらなくて、ポータルに繋げばいいってことが、分かってきました。
青野 所詮、認証の仕組みだけなんですよね。

■苦手な家事を誰かにやってもらえる制度
羽生 未婚の人のも、「いやだな、こういう時代には子育てなんかやりたくないな」と思っているし、子育てをしている人も疲弊してるから、そこを乗り越えさせてあげたいと思っています。
ちょっと遠回りなようですが、今、子育て中のお母さんは、「あれもやれ、これもやれ」と言われている感じなんですね。日本の昔からの遊びに、「だるま落とし」があります。いろいろ重なっていて、それを外していく遊び。ああいうのを自治体でやってほしいんです。「何かひとつ、嫌いな家事を選んでください」と、その嫌いな家事を書いてもらい、地域のクーポンでそれをやってもらう。
わたしは掃除が大好きなんですが、洗濯は大嫌いなんです。洗濯機という家電が、ちょっと信じられないというか、ぐるぐる回すだけで本当に綺麗なるのか疑問なんです。まあ、そのように、人それぞれ、家事で好き嫌いがあるじゃないですか。
わたしが「洗濯を誰かにやってもらいたい」と書くと、「洗濯クーポン」が松下市長から届いて、それを使えば、誰かが洗濯してくれる。そういうふうになれば、わたしたちの前に積み重なっているいろいろなものが、スコーンと取り除かれて、その空いた時間で働いてもいいし、どこかに行くのでもいいとなるんです。
そのだるま落としのやり方が、自治体ごとに違って、競争になっていくぐらいになれば、疲弊して、とんでもないこの世界が、少しよくなるんじゃないかな。
松下 わたしはゴミ出しが苦手なんです。ゴミを集めるのが苦手で。
羽生 なら、松下家にはゴミ集め券を発行してもらいましょう。【笑い】

【思わぬかたちで、松下玲子市長がゴミ出しが苦手だということが発覚したとろこで、時間となり、質疑応答へと移ることになりました。】

~質疑応答編に続く~

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