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【活動報告】第4回「政治を変えたい経営者たち」講演編

第4回は、サイボウズ株式会社 代表取締役社長・青野慶久さんを招き、またこれまでは冒頭の挨拶だけだった、武蔵野政治塾 事務局長・橘民義が壇上に上がりました。

さらに、You Tubeで生配信。また、会場も武蔵野市を出て、東京都千代田区の出版クラブホールとなりました。

参加者は20代・30代が多く、これまでとは変わった雰囲気に。質問も多く、予定時間をオーバーしてしまいました。当日の様子を、事務局がレポートします。

 

司会は武蔵野政治塾の運営委員のひとりである、松下玲子・武蔵野市長です。

 

まず、青野さんが自己紹介。ご自身の経歴と、サイボウズがどんな会社なのかを語ります。

 

青野「1971年生まれの51歳。愛媛県今治市生まれです。田舎で育ったんですが、なぜかコンピュータに目覚めてしまい、最初、パナソニックに入社しました。サイボウズを1997年に起業して、最初は3人しかいなかったんですが、いまは1200人くらいになりました。

何をやっている会社かというと、情報共有のサービスを作っています。テレビCMもしています。」

 

★サイボウズについての詳しいことは、ホームページを御覧ください。

https://cybozu.co.jp/

 

 

■勤務時間も勤務場所も自分で決める、副業も自由

サイボウズは、「働き方」のユニークさでも知られています。

 

青野「何時に出社し、何時に帰ってもよく、在宅勤務も可能です。働く時間と、働く場所を自分で決められる。広島東洋カープのファンの社員は、試合のある日は出社しなくてもいい。

さらに、仕事というか職種も自分で選べるんです。

さらに、副業もかまわず、3割の社員が副業を持っています。その副業も会社に届ける必要も、許可を得る必要もありません。

副業をすると本業に支障を来すのではと思う方も多いでしょうが、副業で知り合った人脈がサイボウズの本業につながることもあります。

社員を厳しく管理するのではなく、多様な個性を重視したほうが、生産性が上がることがわかりました。」

 

サイボウズも、最初からこういう会社だったわけではないそうです。

 

青野「2005年頃までは、徹夜が当たり前のような会社でした。そうすると、新卒で入って1年以内に辞めていく人、離職率が28%もあった。これは、無駄だと思ったわけです。

それこそ、経営効率が悪い。

そこで、どんどんわがままを聞いて、辞めないようにしました。そうしたら、みんな生き生きとしてくるんですよ。

ある社員が、『友だちがベンチャー企業を立ち上げるので、そこで働きたい。だけど、サイボウズが好きだから辞めたくない』と言ってきたのがきっかけで、辞めて何年か経っても戻ってこれる再入社制度を作りました。

『子連れ出勤したい』という声があったので、会議室で遊ばせることにした。その結果、夏休みになると、社内で子どもが走りまわっています。

 

ですが、「自由にやらせることで、会社の業績が上がるかというと、ダイレクトにはリンクしない」とも言います。

 

青野「楽しく働けば業績が上がるという、簡単な話ではないです。

実際、『クラウド』が実用化されてくると、サイボウズの業績は悪化しました。

でも、みんながモチベートされていたので、ピンチになると、アイデアを出してチャレンジしてくれました。みんな、逃げなかったんです。楽しい職場で、さらにチャレンジしようという気になってくれて、自分たちもクラウドビジネスにシフトできました」

 

経営者でなくても、人事管理、労務管理の仕事をしている人にとっては、非常に参考になるのではと思います。

 

 

■選択的夫婦別姓の裁判

青野慶久さんを有名にしたのは、「選択的夫婦別姓」を求めて、国を相手に裁判をしたことです。これは青野さん自身が、結婚したときに妻の姓にしたことで、さまざまな不利益を被り、これはおかしいぞ、と思ったことから始まりました。

今回のテーマは「政治を変えたい経営者たち」ですが、まさに、政治を変えたくて物申したわけです。

 

青野「21年前に結婚したんですけど、直前になって、妻が『姓を変えたくない』と言い出したんです。そのときまでは、結婚したら女性が姓を変えるものだと思い込んでいたので、イラッとしたんですが、男女平等というのであれば、もっともな話かなと思い、僕が変えることにしたんです。

旧姓のまま働いている人も多いので、たいした不都合はないだろうと思ったので、気軽に、変えてしまいました。

ところが、そうではなかったんです。法律上、大事ところはぜんぶ、新しい姓に変えなければならない。パスポート、運転免許証、銀行のカード。カードを変えると、それに紐付けられているECサイト内でも、名前を変えなければならなくなる。

とくに困るのが、海外へ行くときです。

先方が呼んでくれるときは、『AONO』で飛行機やホテルを予約してくれるのですが、パスポートは戸籍名ですから、乗れないし、泊まれない。」

 

そんな不都合なことが多いので、2018年に、青野さんは国を相手に訴訟を起こしました。

しかし、負けてしまいます。それでも、この問題が広く知られるきっかけになりました。

 

青野「旧姓の通称使用拡大で解決できるようなことを言っていますが、そんなことをやっているのは、いまや日本だけです。外国ではパスポートに2つ名前があるなんてことは、通用しません。

 

 

■戸籍をめぐるさまざまな問題

 

橘事務局長が、「戸籍の問題は知っているようで知らない」と発言し、対談になっていきます。

 

橘「若い社員が結婚すると、『入籍しました』と言う人が多いけど、間違いです。それまで親のところに戸籍があった二人が結婚する場合は『入籍』ではなく、新たに戸籍を作るんですよ。

選択的夫婦別姓を実現するには、法律的に戸籍をどう変えたらいいんですか?」

 

青野「同じ戸籍に入る人は、同じ姓でなければならないという、同一戸籍同一氏の原理原則があるんです。これを違う名字でも同じ戸籍に入れるようにするだけで、いいんです。

それをやらないために、どういうことが起きているか。

たとえば、女性が子連れ再婚するとします。子どもの名字を変えたくない場合、子どもは新しい夫との戸籍に入れないんです。

他にもいろんな人がいろんな苦労をしています。

この原理原則を変えればいいだけなのに、なんで抵抗するのか。変えたい人が変えるだけでいいんです」

 

橘「世界でも、戸籍が残っているのは、ほぼ日本だけらしいですね」

 

青野「強制的に夫婦を同性にする法律が残っているのは日本だけです。いかに日本が変わらない国であるかの象徴です」

 

橘「海外へ出ていく会社、海外で活躍する人がいるんですが、日本自体はグローバルななかで、ガラパゴスなところがいっぱいあります。夫婦別姓問題はその代表ですね」

 

青野「海外出張に行くのに、こんなに苦労しているんですよ。足かせになってます。国際競争力を下げていて、どうするんだってことです」

 

 

■「事実婚」には不都合、不利益が多い

 

橘「事実婚というのも、ありますよね。戸籍を一緒にしないけど、結婚して子どもを持つ人もいます。そういう場合、どういう不都合がありますか」

 

青野「事実婚は、法律上は婚姻ではないんです。だから、いちばんわかりやすいのは、子どもが生まれたとき、親権がどちらか片方しか持てません。婚姻関係にある夫婦の子の場合は、夫婦で持てるんです。

あとは、お金、財産です。どちらかが亡くなった場合、相続税が配偶者は優遇されますが、それがありません。

子どもを増やしたいんだったら、法律を変えなさいってことです」

 

橘「なるほど。入院して手術するときの『家族の同意』も、事実婚だとだめですね。相続と、親権ですね。他にありますか」

 

青野「事実婚だと、携帯電話の家族割が使えないんです」

 

ここで会場はどっと沸きました。

結婚して夫婦同姓にする、つまり片方が改姓しても不都合が生じ、同姓にしたくないために、事実婚を選んでも不都合が生じるわけだから、選択的夫婦別姓を認めれば、こうした問題のかなりの部分が解決します。

 

橘「この問題で、企業で面倒なことが起きている。つまらないことに時間を使っていると思います」

 

青野「給与明細は戸籍名なので、会社で旧姓で仕事をしていると、『こんな人、いたっけ』ってことになりますよ。

あと、子どもの保育園から『◯◯さんいますか』と電話がくると、保育園では戸籍名なので、『そんな人はいません』となってしまう。職場の同僚でも、その人の戸籍名まで把握していることは、めったにないです。それはプライバシーですしね」

 

■経営者が声を上げ始めた

 

橘「経営者のなかで、青野さんと一緒にこの問題に取り組もうという方がいて、グループができましたね」

 

青野「2年くらい前か、ビジネスリーダーから賛同の声を集めてみようと、署名運動みたいのをしたんです。けっこう大企業の経営者が手をあげてくれました。選択的夫婦別姓に、ほとんどが賛成です。というより、反対している経営者なんて、聞いたことがないです。

政治だけが変わらない」

 

橘「そこで、青野さんが始めたのが、ヤシノミ作戦ですね。

選択的夫婦別姓や同性婚を進めない政治家をヤシノミのように落とすことで、結果として賛成する政治家を増やし、制度の早期実現を目指す活動です。

ものすごく面白いし、そこまでやるか、と思いました。この人を当選させようというのが選挙運動でしたが、この人を落とそうという、その発想が自由ですね」

 

★ヤシノミ作戦については、こちらを御覧ください。

https://yashino.me/

 

青野「あれしかやる手がなかったんです。裁判をやった結果、メディアも応援してくれたし、世論も動いたんですよ。いま世論調査をしたら、7割か8割が選択的夫婦別姓に賛成です。

残りが反対。若い世代はほぼ賛成。

なんで政治家は変わらないのか。自民党の一部の国会議員が強硬に反対しているので、この問題が進められないってことがわかったんです。

じゃ、そいつを落とすしかない。そこで反対している人をリストアップしました」

 

橘「国会議員の誰が賛成か反対かというリストは、実際にアンケートをしたのですか」

 

青野「一般の新聞などの報道などをもとにしました。この人は賛成、この人は反対、この人は態度が曖昧、というのを一覧にしました。これを見て、選択的夫婦別姓に反対している人には投票しないでくれと訴えたんですが、手強いですね。

衆議院では小選挙区の速報では、自民党で反対している人の3分の2くらいを落とせたんで、やった!と思ったんですが、ほとんどが比例で復活当選しました」

 

橘「武蔵野政治塾でも、選択的夫婦別姓についてアンケートをとったら、96パーセントが賛成、青野さんの味方でした。

この問題は、自民党の一部の強硬な、多分、統一教会系だと思うんですが、そういう人たちが中心にして反対しているんだと思います。

こういう問題は、やはり経営者が積極的に政治に参加しないと、変わっていかないと思うんです。本当にいい経営をしよう、成長していこうと思うなら、黙っていて、上から下りてくるのを待っているだけというのは、そろそろ通用しなくなると思います。」

 

 

■経営者が政治について発言しない理由

 

青野「日本の経営者は政治を語らないですね。僕も、語り始めたのは3年前くらいですから。気持ちは分かります。言っても無駄だと思っていますし、誰に言えばいいのかも分からない。

言ったら、後でクレームがきたりするんですよ。裁判を始めたとき、サイボウズの製品サポートの窓口に『社長のあの行為をやめさせろ』とクレームがきたこともあります。

それを受ける社員は関係ないわけです。社員にいやな思いをさせたくないなと思うと、ためらってしまうこともあります。そこが、経営者が政治に口を出せない理由だと思います。

でも、経営者は口に出さないといけない。経営者が言うことは、聞いてくれるんです。

僕の裁判も、男性の上場企業の経営者が訴えたから注目され、メディアも取り上げてくれた。僕の前に、何十年も、たくさんの女性が声を出しているのに、無視されてきた。

そこに、上場企業の経営者が『夫婦同姓はカネがかかるからやめてくれ』と訴えたので、この問題は経済的損失が生じているんだと注目されたんだと思います。

だからぜひ、経営者は、声をあげていただきたいと思います」

 

橘「たしかに、女性の問題だと思われていました。

結婚する前に、5年とか10年、働いてきた人、自分で仕事をしてたきた人が、女性だけが、結婚したら名前を変えなければならない。これは不公平ですね」

 

青野「研究者の方が困ってますね。研究論文は、法律上の正式な名前で書かなければならないんです。だから、結婚すると、論文は新しい姓で書かなければならず、旧姓時代の業績とリンクされなくなってしまう。

名前を変えても通用したのは、ユーミンだけです。荒井由実から松任谷由実になっても、変わらなかった。あれくらい有名な人ならいいけど、他の人は、無理でしょう。

他の芸能人は結婚しても名前を変えないでしょう。名前を変えるってことは、キャリア断絶を生むんです」

 

橘「この問題は、経営者の方が青野さんについていくというか、巻き込まれて、いまある制度に対して『違うじゃないか』と言い始めたことが大事だと思う。だから、もっといろいろなことで声をあげてほしい。

たとえば、マイナンバーカードについても発言されてますね」

 

 

■マイナンバーは賛成、カードは疑問

 

というわけで、次に話題になったのは、「マイナンバーカード」。

普及のためにポイントを付けるとか、健康保険証と一体化するなど、さまざまな方法を政府は打ち出しています。

青野さんは、「マイナンバーは必要だが、プラスチックのカードである必要はない。全員にスマートフォンを配ったほうがいい」と主張。

 

青野「マイナンバーは、全国民に割り当てられた出席番号みたいなものです。これについては、僕は、番号はあったほうが便利だと思います。

ですが、そのマイナンバーを認証するために、プラスチックのカードを全国民にいまから配るのは反対です。いったん止めて、なかったことにして、スマホ・ベースにすべきです。

スマホの普及率8割の時代に、なぜプラスチックのカードなのか。

しかも、そのカードを送ればいいのに、自治体に申請させる、なんてことをしている。自治体の窓口の人、大変じゃないですか。しかも、10年ごとに更新しなければならない(電子証明書は5年)。

しかも、暗証番号を忘れたら、再設定が必要で、また役所に行かなければならない。

ちょっと待てよ、いま、僕たち、仕事を減らそうとしてがんばっているのに、なんでそんなことをしているのか。しかも、お金がかかっていなければ、まだいいんですが、何兆円もかかっているそうですよ。

もう、これはいったんやめて、スマートフォン・ベースのもっとライトなものにしてほしい。

カードはなくなっても気づかないけど、スマホはなくしたらすぐに気づきます。生体認証もできる。よっぽど安全です。

だから、マイナンバーはいいから、マイナンバーカードは止めませんか、と言っているんですが、いったん走り出すと、止まらない感じですね。

菅(すが)さんが総理になったとき、改革をやってくれるのかなと思ったんですがダメでした。デジダル庁ができて、改革派の河野さんが大臣になったのでまた期待したけど、河野さんは、さらにアクセル踏んで、投入される税金がどんどん増えていく。

非効率なものは、止めようよ、と言っているんです」

 

橘「マイナンバーカードが普及しないんで、ポイントを出してますね。エサやるから食いつけみたいな感じです」

 

青野「利便性が低くて、使いにくいから、みんな作らないわけでしょう。解決すべきは、そちらなのに、ポイントをあげるとかやっている。利便性の低いカードを無理やり配るのはなぜなんですか。それでお金を儲けている方がいらっしゃるのか」

 

橘「今度、政府も腹を決め、健康保険証も一緒にしようと言ってます。これをやられたら、しょうがない、みんな持ちますよ。健康保険証がなくなるとなれば。

だったら、最初からそうしろよという話です」

 

青野「それは、健康保険証を統合するのではなく、最初から健康保険証でいいじゃないですか。みんな持っているんだから。健康保険証とか運転免許証とか、日本には割合と普及しているものがすでにあるんですから、そこをバージョンアップすればいいのに、新しいカードをゼロから作って、全員に配ろうとしている。穴、掘って、埋める感じです。」

 

橘「デジタルが苦手な人、ケータイも持っていない人もいるじゃないですか。そういう人のためには、何かバックアップするものが必要だとは思うんですよ。

デジタルというものが、人間のコミュニケーションの深さとか感覚を削ぎ落とす面もあるので、それを保つものとして、カードも残したほうがいいとも考えるんですが」

 

青野「8割の人はスマホでいいとして、残り2割の人はどうするか、ですね。

僕の意見としては、残りの2割の人にもスマホを配ればいいと思います。プラスチックのカードをもらっても、何にもできません。けれど、スマホであれば、災害時に情報を送れるし、プライバシー情報を解禁してもらえれば、どこにいるのかもわかる。スマートウォッチで心拍数もわかる。

高いレベルの国民向けサービスが作れます。プラスチックのカードなんか何もできません。

デジタルによって、僕たちの生活はもっともっとよくできるので、スマホをインフラとして配る。スマホをべースにした社会を作れ、というのが、僕の意見です。

あのカードには意味がないです」

 

 

■情報を国家に預けることへの疑問

 

橘「プラスチックのカードか、スマホにするかの以前の問題として、カード一枚に自分の情報が全部入り、それを国が管理するのは嫌だと考える人もいます」

 

青野「ルールを決めて運用すべきです。自分の情報を預ける場合、僕が知りたいのは、僕の情報に誰が何の目的でアクセスしているかです。

エストニアという国はデジタル国家として知られていますが、情報を預けると、誰がいつ、どんな目的でそれにアクセスしたか、履歴が全部わかるようになっています。だから、おかしなことに使われていたら文句を言えます。それなら安心して、情報を預けられます。

日本のマイナンバーはそうなっていません。ルールもない。運用もしっかりしていない。そんなところに情報を預けるのは怖いです」

 

橘「残念ながら、日本政府は公文書を改ざんしたり統計不正があったりして、国民の信頼を得ていない。そういう政府に預けるのは怖いですね」

 

青野「僕たちがやっているクラウドサービスは、グローバルでビジネスをしていますから、それぞれの国の厳しいルールを守らないと、ビジネスができません。

ヨーロッパは、はるかに厳しいです。GDPR(一般データ保護規制)というのがありまして、それを守らないといけない」

 

★注・GDPRについては、ここを御覧ください。

https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/laws/GDPR/

 

青野「日本も、こういうルールを作ることからやらないと、デジタル国家として信頼されません。カード配る前にやることはあるよね、と」

 

 

■政治だけでなく、経済もだめになってしまった

 

橘「日本という国は、政治的にだめだと思い、私はいろいろな活動をしてきたんですが、残念なことに、経済も、失ったものが多いと思います。

たとえば、半導体。日本が最先端だったのが、どんどん負けていき、そのあとでまた国が『日の丸半導体』とか言ってやろうとしたけど、うまくいかない。

再生可能エネルギーでも、太陽光発電パネルなんて、日本が開発してうまくやっていたのに、いつの間にか中国が一番です。

ドローンだって、実は日本が早くから取り組んでいたのに、規制が多くて、あそこは飛ばしてはいけないとか、そんなことばかりやっていたので、それじゃ売れないやとなって、作らないでいたら、遅れてしまいました。

政治がだめになった間に経済までだめになりました。

そんななかで、青野さんがやっていらっしゃるグループウェアはどうなんですか。世界に展開されていますね。

グローバル展開と言うと、労働力の安い国に工場を建てて、安い賃金で人を使って儲けている、そういうやり方をして批判される会社もあります。私の会社も13か国に拠点がありますが、そういうことはしていません。青野さんのところもそうだと思います」

 

★橘事務局長の会社、ポールトゥウィンホールディングスについては、こちらを御覧ください。

https://www.phd.inc/business

 

青野「私たちのグループウェアの仕事の競争相手は、マイクロソフトやGoogleなんです。時価総額何百兆円という会社、トヨタよりはるかに大きいところと競争しています。

でも、チャレンジし続けている姿勢が大事だと思います。

グローバル展開を諦めて、日本国内に特化しようとしたら、だめだと考えています。

この間のサッカーのワールドカップを見て、そう思いました。

30年前、僕の学生時代は「ドーハの悲劇」で、ワールドカップへ行くことすら叶わなかつた。それが、ワールドカップへ行けるようになった。でも、勝てない、点が取れない。その時代があって、いまでは、世界と互角です。ドイツやスペインに勝つようになった。

これは、なぜできたのか。それは、選手がチャレンジして、どんどん海外へ出たからです。代表チームのメンバーの多くが、海外のチームで活躍している人です。

海外で戦わないと、勝てません。日本国内でがんばっても国際競争力なんかつきません。

僕は、勝てるとは断言できないけど、チャレンジを続けたい。」

 

 

■世界を見て、足元を見る

 

橘「私の話をさせてください。青野さんとはちょうど20歳違うんです。私は51年生まれ、青野さんは71年生まれです。

私は、若いころはチャレンジングでして、大学を卒業したとき、就職しなかったんです。海外移住をしたかったんです。変わった若者でした。

それで、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドに移住申請を出したんですが、全部、落ちました。理由は、英語が不十分。『あなたは、移住しても食べていけません』と判断されました。

それで諦めて、日本で生きていくしかないかと思いまして、江田五月さんという、去年亡くなった政治家(参議院議長、法務大臣などを歴任)の秘書になったんです。

6年間やりました。30歳から36歳。その間、1日も休みなしです。そういう時代だったんです。いまだったらブラック企業で訴えられるところです。

働くことに関しては、とことんやりきった感じがしたので、もう辞めようと思っていたら、県会議員の選挙に出る話が来て、出たら当選してしまいました。

3期・12年やりました。どっぷり政治の世界に入ってしまい、夢であった「海外」は旅でしか実現できなくなりました。それで議員も辞めて、いまの会社、ポールトゥウィンを起こしました。

そのあと、まだ、どうなる分からない時期ではあったんですが、海外へ行きたいというムシが騒ぎ出しまして、4年ほど、中国の上海で暮らしました。

落ち着かない人間なんです。海外が好き、グローバルが好きなタイプなんです。

地球という視点でモノを見ないといけないと思うようになりました。

政治というのは、世界の隅まで見ないと政治ではない。

地方自治をバカにしているわけではありませんが、足元だけを見て考えるのは、間違っているんじゃないかと感じています。

これから日本が発展することを考えると、青野さんのような若い経営者の会社が伸びてくれないと、もう伸びる業種はないんです。

青野さんに責任を押し付けるようですけど、どう思われますか」

 

 

■日本を背負うつもりはない、地球の80億人全員を幸福にしたい

 

青野「僕は、日本を背負うつもりは、あまりないんです。サイボウズも社員の2割は外国人です。ワールドカップのときなんか、『日本が勝った、ワーイ』とやっていると、しょんぼりしているドイツ人もいて、『あ、ごめん』なんてことになりました。

どの国が勝つとか負けるとかはどうでもいいことで、地球に暮らす80億人が幸せになるかなんです。国にとらわれると、本質を見失うと思います。

誰かが不幸になるのではなく、80億人全員が幸福になるにはどうしたらいいかを考えたい。

そうなったとき、国家が邪魔してないか。

そういう視点から議論できるようにしたいです。」

 

橘「私と感覚は同じだと思います。

世界を見て、足元を見て行動しようという、そういう時代です。

私たちの世代は、重厚長大型産業が強い時代でした。それが、どんどん少なくなり、いまは自動車くらいしかない。それも危ない。

1990年代に、マイクロソフトがWindows 95を出して、がらっと変わった。

それに、Googleが続いて検索をがらっと変え、アップルのiPhoneが出て携帯電話もがらっと変わりました。

では、次は何だろう。私はいま予言しているんですが、次はテスラじゃないか、と。電気自動車です。

このままだと、グローバルななかで、日本は自動車もまたガラパゴスになりますよ。世界がみんなEV(電気自動車)に向かっているのに、トヨタはエンジンなんていう、部品も多いしカネもかかるし、面倒なものにこだわっている。いい加減にやめてほしい。

水素車なんていう話もありますが、これもバカな話です。

日本中に水素スタンドを今から作るんですかってことですよ。いくら経産省が旗をふっても、そんなことはできませんよ。

電気だったら家庭で充電できるんです。その便利さに比べたら、水素自動車なんてありえない。

そういうことをまだやっている。どうして世界をちゃんと見ないのか不思議でしょうがない」

 

青野「そうですね。環境問題について、欧米がすごいなと思うのは、ビジネスチャンスだと捉えて、大義名分を用いて、世界のルールを作っていくところです」

 

 

■原発事故で日本は滅びる寸前だった

 

橘「最後に、いちばん言いたいことを言わせてもらいますと、原発です。

2016年に『太陽の蓋』という映画を作りました。

 

★橘民義プロデュース、映画『太陽の蓋』については、こちらを御覧ください。

https://taiyounofuta.jp/

 

2011年の東京電力福島第一原発の事故のときの、首相官邸と東電のやりとりを映画にしたものです。

もう少しで、東京まで被害がくるところだったんです。最悪の場合、福島から250キロ圏内が避難区域になるところでした。東京が含まれるんです。もし、そうなっていたら、東京に人が住めなくなったら、日本は事実上、なくなっていましたよ。

なぜ助かったのか。東電の人たちががんばってくれたのは事実ですが、それだけではなく、奇跡が起きたんです。

細かい話になりますが、福島第一原発には6号機まであり、建屋が爆発したのが、1号機、3号機、4号機でした。

2号機の建屋は爆発してないんですが、格納容器にひびが入りました。それで助かったんです。なぜひびが入ったのか、そうなるように設計されていたわけではありません。性能がよかったら、バーンと爆発したでしょう。悪かったから、ひびが入ったんです。

そうなったら、なかの放射能が出て、近寄れなくなっていたはずです。第二原発にもいられなくなり、手がつけられなくなったところでした。

それくらい、2号機はやばかった。

4号機は定期点検中で稼働していなかったのですが、水素がまわってきて、建屋は爆発しました。使用済み核燃料を冷やしていて、その水がなくなっていたら、これも干上がってしまい、大変なことになるところでしたが、奇跡的に水が偶然、流れて助かった。

奇跡に奇跡が重なって、日本は助かったんです。

そういう悲劇だったことを、映画にしました。

でも、『助かったんだからいいじゃない、原発も、まだやろうよ』というのが、いまの政府です。

何を言っているんですか。こんな危ないものをいつまで持っているんですか、という話です。

ウクライナでは、ロシアのプーチンが原発を攻めています。

原発に爆弾を落とせば、核爆弾を落とすのと同じです。日本が戦争を起こしたら、向こうは、日本の原発を狙いますよ。核爆弾なんて必要ない。普通の爆弾で、核爆弾を落とすのと同じになる。

それなのに、日本では原発を続ける。

そういう原発賛成派の人たちは、かならず『エネルギー、どうするんだ』と言いますね。

これも、自然エネルギーで100パーセントやれるのに、『やれない』というウソがまかり通っています。

これも、グローバルななかで日本はガラパゴスになっています。世界は自然エネルギー、太陽光に向かっています。

この10年で、太陽光の発電コストは10分の1、風力も7割減になりました。さらに、バッテリーのコストも10分の1になりました。

それなのに、『太陽が照らない日があるとか、風が吹かないときもある』とか言って、反対する。

政府が自然エネルギーに舵を切ればできるのに、やらない。原発なんて高いものにこだわる。

太陽光発電は原料がタダなんです。太陽ですから。日本中どこにでもある。輸入しなくていい。

石油も原発の燃料のウランも、外国から船で運んでこなければならない。

太陽光と風力でやっていけば、電気代は、ゼロ円に近づくと言われています。設備費だけで、原料はゼロですから。設備費もどんどん安くなっていきます。

それなのに原発をまだ続けるなんて、愚の骨頂です。

太平洋戦争に負けてしまったのに、これから戦艦大和を作ろうとしているのと同じですよ。」

 

 

■原発もマイナンバーカードの共通点

 

青野「マイナンバーカードと共通点がありますね。テクノロジーは進歩してるのに、そっちに投資しないで、今のものをやり続ける。

こっちに投資したほうが長期的に十分なリターンがあるのに、なんでいまの技術に固執するのか。新しいイノベーションが世界中で起きているのに、そっちに行かない。

そこが、日本がズブズブと沈んでいる理由だと思います」

 

橘「このままでは、日本経済も、国も危ないです」

 

後半は、原発問題で熱くなってきましたが、約70分にわたる、お二人の対論は終わりました。

続いて、会場にいらした方との質疑応答になりますが、ここでもまた熱い対論となり、予定時間を大幅にオーバーしてしまいました。

 

~質疑応答編に続く~

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